中国情報

中国製オシロ使用

中国製オシロ使用

ここでは、中国製オシロの使用感をお伝えします。

中国製オシロ使用感と言うと、日本製のオシロと比較してどうか、という暗黙の意味合いがありそうですが、そもそも10年か20年、オシロスコープというものは使っていなかったので、デジタルオシロスコープと言うものすら自身で使ったことはありません。

つまり、かなり前のアナログオシロが私の基準になっているのですが、40年ぶりにアマチュア無線復活という人は私のほかにも多いようですので、そういう方はやはりアナログオシロ世代、よって一応の参考になるのではないかと勝手に考えております。

とは言え、以下のレポートはアナログオシロと比較をしたものでもなく、2万円強の中国製デジタルオシロスコープは使えるのか、性能にいつわりはないのか、という観点でお送りします。

ユーザインタフェース

パネル面のボタン、ダイヤル類は、アナログオシロだけしか使ったことがない者にとっても違和感なく使えるものです。パネル面の表示は英語です。
左から順にCH1の垂直、CH2の垂直、水平、トリガというようにグループ分けしてボタン、ダイヤル類が配置されています。

最上段にはデジタルオシロ特有のMENUボタンなどが配置されています。

ADS1102CA パネル面

LCD画面上の表示はデフォルト中国語です。
これは、MENUボタンのひとつであるUTILITYボタンを押すことによって表示される言語Languageから選択することで、英語、日本語をはじめ、フランス語、韓国語、ポルトガル語、アラビア語と言った世界の主要言語に設定することができます。(上の写真はEnglishを選択したところ。Englishの上には簡体中文、繁体中文が表示されています。)

また、HELPボタンに続けて各機能ボタンを押すことにより、画面上のその機能の説明を設定した言語で表示することができます。

紙の取説は中国語で書かれているのですが、この取説が読めなくてもHELP機能により、このオシロを使うことができると思います。

日本語にしておけばストレスなく読めて快適です。ただし、日本語だと昔使っていたオシロのパネル面はすべて英語だったので何となく違和感があります。たとえば、トリガでAUTO、NORMAL、SINGLEのNORMALが「正常」というのはちょっと変なので、最初は日本語にしていたのですが、今は英語にしています。

性能評価

性能評価というほど大げさなものではないのですが、2万円強で100MHzは本当か?安すぎる!ということで、100MHzの性能があるのか調べてみることにしました。

オシロの評価などこれまでしようと考えたこともなかったので、どうやるのが正式な方法は知りませんが、次のような方法でやってみることにしました。

その前に言葉の意味を確認します。

100MHzのオシロとは?

これは、たとえば振幅が1Vppの正弦波を観測するときに、低周波から高周波に周波数を上げていったとき、ある周波数までは1Vppとしてオシロスコープの画面上で観測できるが、それより上では振幅が減少し、100MHzでは振幅が約0.7Vになる(3dB低下する)、それ以上の周波数ではどんどん信号振幅が減衰する、そういう性能のオシロスコープであるということです。垂直増幅回路のアナログ周波数帯域が100MHzである、とも言えます。

ここで気をつけたいのは100MHzのデジタル信号、たとえば100MHzの矩形波が観測できるかというとそうではありません。フーリエ変換の考え方では、100MHzの矩形波は、100MHzの正弦波、100MHzの正弦波の1/3の振幅の300MHzの正弦波、同1/5の振幅の500MHzの正弦波、以下同様に無限に続く、が合成されてできているので、周波数帯域100MHzのオシロスコープで100MHzの矩形波を観測すると矩形波というよりは正弦波に近い波形として観測されます。

よって、100MHzで正しく波形が観測できるのは正弦波だけであるということを忘れないようにしないといけません。
これが50MHzであっても、元の信号に含まれる主要な高調波成分が100MHzの帯域外にあるので波形は忠実に再現できないことになります。

波形の立上り時間を観測する

観測方法

岩通のサイト「オシロスコープの性能と選び方」
http://www.iti.iwatsu.co.jp/ja/support/05_08.html
によると、

ts:オシロの立上り時間
ta:信号の立上り時間
to:オシロで観測される立上り時間

とすると

to=SQRT(ta^2+ts^2)・・・・①  

という関係があります。(SQRTはルートのつもり)
一方、

fw:オシロの(アナログ)帯域

とすると

ts×fw=0.35 ・・・・②

という関係があります。

このオシロは、fw=100MHz が本当なら 
ts=3.5ns となるはずです。

立上り時間がわかっている信号が使えれば、①の関係が成立
するか調べることができます。

ここで、できるだけ高速の標準ロジックTC74LCX04を使うと、
明確にはデータシートに書かれていないのですが、
Vdd=3.3Vで、taはおよそ2.5nsと思われます。

※TC74VCX04の方が高速ですが、秋葉原で入手できませんでした。

ts=3.5ns、ta=2.5nsを①に代入すると、

to=SQRT(2.5^2+3.5^2)=4.3ns ・・・・③

なので、オシロの画面上で立上り時間が4.3nsくらいならアナログ帯域
100MHzがある、ということになります。

測定回路を以下に示します。

測定回路

自作ディップメータから信号を取り出し、TC74LCXのインバータを何段か通してロジックレベルとした出力波形を観測します。出力に負荷として抵抗(510Ω)とコンデンサ(47pF)を接続していますが、これはTC74LCX04の測定回路として示されているものです(データシート上は500Ωと50pF)。

測定基板

TSOPパッケージのICの半田付けはつらいです。
第三の手で紹介したルーペを通してみても、半田ゴテとICのリード線との関係がよくわかりません。手探りで半田付けして、もっとよく見えるルーペでチェック。


観測結果

観測は信号がしっかり矩形波に見える低周波帯で行います。

2MHz

画面左端に1の印があるところが、CH1の0Vです。1V/divです。
カーソルA 3.08V
カーソルB  40mV
その差  3.04V
周波数   2.00441MHz

測定条件、測定値が画面上に全部表示されるのは非常に便利です。
昔はポラロイド写真に撮って、30秒ほど両手であたためてからはがして、出来立ての写真の裏にこの手のデータを手書きしたものでした。

2MHz

立上り時間taは、Hレベルの電圧の10%から90%まで立上る時間として測定しました。Hレベル電圧は約3Vなので、0.3Vから2.7Vまでの時間です。

測定結果は以下のとおりです。

周波数(MHz)  ta(ns)
   2     4.5
   5     4.3
   10     4.3

前述の③で算出した4.3nsにだいたいなっていますので、
オシロの立上り時間は3.5ns、したがってアナログ周波数帯域
fw=100MHz
はある、ということが確認できました。

波形の振幅の変化を観測する

観測方法

上記の方法で、まずは確認できたのですが、ts×fw=0.35 ・・・・② というどうしてそうなるのかわからない関係式を使ったところが少し引っかかるので、もう少し直接的に確認できないかということで周波数による振幅の変化を観測してみることにします。

振幅が一定であることが保証された発振器、すなわちSGのようなものがあれば、単純に1Vppの正弦波を周波数を変えながらオシロの画面上で観測すれば
高周波になるにしたがって振幅が減少するので、100MHzで3dB減少するかどうかを確認すればいいだけで簡単です。

ここでは自作ディップメータを信号源にすることにし、すると振幅一定にはならないので、ロジックICを通すことによりロジックレベルで振幅を一定(約3V)にします(測定回路は上述と同じ)。高周波領域では、フーリエ変換したときの高調波(基本波の3倍、5倍、、、の成分)がオシロの周波数帯域外となるため波形が崩れてき、やがて高調波成分がほとんど通らなくなると正弦波に近い波形となり、その正弦波の振幅さえも徐々に減少してゆく、その減少の仕方をとらえて100MHzで3dB低下になっているかを確認しようというものです。ロジックレベルでの測定は、ADS1102CAL(画面横長タイプ)を購入された方のサイトを参考にしました。

因みにDuty 1:1の矩形波をフーリエ変換したときの各成分をある次数まで合成したときの波形を以下に示します。

基本波の波形
基本波

5次高調波までを合成した波形
5次まで合成
3次高調波までを合成すると茶色の波形、5次高調波までを合成するとうす緑色の波形になります。言い換えると7次以上の高調波成分が全くないとこんな波形になります。

100MHzのオシロで20MHzの矩形波を観測すると、だいたいこんな波形に見えるはずです。

11次高調波まで
11次まで合成
この辺りまで来ると、だいぶ矩形波に近くなって来ました。

観測結果

20MHzでこんな波形です。

20MHz

3倍の60MHzは帯域内、5倍の100MHzでぎりぎり、7倍の140MHzはかなり落ちているはず、ということで上記の5次高調波までのグラフとLレベルでは似た波形になっています。(Hレベルは似てないですが)

理論的な波形と似ていても同じにならない要因は色々考えられます。
1)ディップメータの発振波形を2値化するときにDutyが1:1になっていない。
2)ロジックIC出力のオーバーシュート、アンダーシュートが大きい。
3)オシロ・プローブの入力容量(約14pF)が測定回路に影響を与えている。
4)オシロの帯域は有限だが、高調波は5次までだけが完全に含まれているわけでもなく、また7次以上も少し含まれている。
5)信号源のディップメータの波形にノイズが乗っている。

100MHz

100MHzでは、高調波はほとんど通らないのでサイン波に近い形になり、振幅もだいぶ減少しています。
(信号源の発振が不安定になっています。)
オシロのカーソルはあわせていませんでしたが、縦軸は1V/divで、20MHzを同じレンジです。


さて、これで110MHzあたりまで波形がとれたので、周波数により振幅がどのように変化するかをグラフにしてみます。

ここは実際には単純ではなく、フーリエ変換したときの基本波および各次高調波の振幅はフーリエ変換する矩形波の振幅よりも大きくなることと、上述した各種の理論的な波形と同じにならない要因により何を持って振幅とするかが難しいです。

そこで、まずは「えいやっ」でロジックレベルの範囲を超える0V以下は無視(マイナスの電圧は0Vとする)、3V以上は無視(3V以上の電圧は3Vとする)することにしてプロットしてみました。

オシロの周波数帯域

これを見るとそれらしいです。
(段になっているところは測定誤差として気にしないでください^^;)
100MHzで約3dBダウンですから、仕様どおりです。

このグラフは0V以下と3V以上を無視したので、その補正をすべく理論値の最大振幅は例えば3次高調波まで合成した場合は元の矩形波の振幅の1.20倍なので、それに対して観測波形がどれくらいに比率で落ちているか、という計算もしてみたのですが、上述したように実際の波形が理想的はDuty1:1のオーバーシュートもアンダーシュートもない波形ではないので、うまく行きませんでした。

さらにディップメータの発振波形はもともとサイン波なので、この出力レベルをRF電圧計での測定値が一定になるように調整しながら、そのときにオシロで観測される波形の振幅を観測するということもやってみました。
ショットキーバリアダイオード1SS108を使ったRF電圧計は1GHz程度までほぼフラットとのデータもあったので、RF電圧計を組んでやってみましたが、
ディップメータの出力が高周波では小さくなり正確に測れないなどの事情で断念しました。

結局、それらしいデータは「えいやっ」でとったものだけになってしまいましたが、100MHzあたりの減衰の仕方は概ね間違っていないと思いますのでこれで了とします。

※「概ね間違っていないと思う」という意味は、70MHzあたりまではオーバーシュートアンダーシュートがあるのを切り捨てているので、グラフがフラットになっているのは当然なのですが、80MHzから上はHレベルが3V以下のサイン波的な波形で周波数があがるにしたがってHレベルが低下して見えてくるのでHレベルのオシロ上での落ち方はそれなりに取れているだろうということです。

デジタルオシロならでは

FFT機能

このオシロには高速フーリエ変換機能(Fast Fourier Transform)がついていますので、試しに40年前自作機の9MHz水晶発振のところの時間軸波形(上)と周波数軸FFT波形(下)を見てみました。

9MHz発振

周波数軸は20MHz/divです。
9MHzとその高調波(18,27,36,45MHz)が見えます。

設定を変えると見え方が変わります。

9MHz発振

時間軸波形を拡大して見た状態でFFT波形をとるとこのように周波数分解能が悪くなります。
周波数軸は10MHz/divです。

なお、窓関数がこれはBlackmanになっており、振幅方向の分解能は最もよいが周波数分解能が悪い、と取説には書かれていましたが、Hanningとの違いはちょっと見たところではよくわかりません。

時間軸波形から周波数を8.99850MHzなどと表示してくれていますが、実はこのオシロで初めて見てみたら8.99796MHzになっていました。まあ、昔は周波数カウンタもなく、聞いた感じで適当によさそうなところにVXOを調整していただけなので^^;
周波数もわかるのはなかなか優れものです。

このオシロのFFTは、アナログのスペアナに比べると分解能やリアルタイム性が劣るようです。「ハロー」としゃべると9MHz SSBジェネレータの出力で音声のサイドバンドがどのように出るか、を見てみました。

9MHzSSB

しゃべった分が出ることは出るが分解能が不足で音声のスペクトラムまではよくわからないというところで、実際どういう場合にどの程度役に立つかは要研究です。

周波数軸は1MH/divで、右端の9MHzのところの山がそうです。


付属ソフト

パソコンと接続して使うためのソフトウェアEasyScope3.0が付いているのですが、インストールすると文字化けして、画面の表示文字が読めません。
2011/11/6、サポートに問い合わせメールを出しました。

文字化け画面

2011/11/9、サポートより返事あり。このソフトはWindows7でのみ動作するとのこと。
取説には、Windows 95、Windows 98、Windows me、Windows 2000(Intel)、Windows NT 4.0(Intel)、Windows Vistaおよびそれ以上のソフトで動作すると書かれており、おかしいではないかとメール返信するも音沙汰なし。

その後、英語版のソフトをATTENのサイトからダウンロードしたら、文字化けなしで問題なく表示することができました。
なお本ソフトはまだインストールしただけなので、使用したらレポートします。

その他

デジタルオシロなので、時間(Horizontal)軸の選び方等によってギザギザが出ることがあります。上述の20MHzの波形写真でもギザギザが出ていますが、これはサンプリングの影響ではなく、表示器がCRTのようなアナログ表示ではなくデジタルのLCD表示のせいです。

Horizontalダイヤルを左向きに回して全体にノイズが載っていないか、波形に揺れがでないか、などを見るときに、表示解像度が低いために、AM変調波形のような擬似的な波形が見えることがありますが、これはデジタルオシロならではの擬似波形なので本当にそうなっているわけではありません。ま、使い慣れれば当たり前の話ですが^^;

感想

結論としては、このオシロは十分使えます。というかコストパフォーマンスは非常によいです。今後壊れたりしなければ、25,000円でこの性能・機能は大満足です。

オシロスコープの性能を十分な測定器もなしに評価しようなどとは、なかなか不遜な行為だったのではないかと思い知りました。
やっているうちに自作ディップメータの波形が如何に汚く、不安定であるかがわかり、むしろそれを直すために評価しようとしたオシロを使うという、本末転倒、ではなくこれが本来の使い方、をしていました。

オシロがなかったらディップメータの内部波形など知りようがないわけで、作ってとにかく発振すればそれで終わり、になってしまうところでした。発振周波数によっては、デジタルカウンタ部のノイズが発振波形に重畳していたりというようなこともわかり、今後まさに必要不可欠の道具として愛用して行くことになりそうです。

測定の様子
(2011/11/9)

感想などありましたらこちらへお願いします。→ここをクリック

a:16203 t:2 y:7