中国渡航記

妻来るも中国入国不可

妻来るも中国入国不可

 夏休みに妻が訪ねて来た。香港到着後1泊2日で香港を楽しんだあと、中国に入国しようとしたところ、入国審査でひっかかり中国入国不可となる不測の事態が発生。

前途を暗示する黒雲?

 

これは香港到着翌日に、香港島の中環(セントラル)から昔の香港の漁村風情が残る長洲島へ渡る船から撮影した中環の様子。

 日本国の発行する一般旅券(パスポート)では15日間ノービザで渡航可の中国だが、妻は公用旅券を所持しており、公用旅券(オフィシャル・パスポート)はビザが必要だというのだ。

 深センの我が家まであと20分のところで香港に戻れ、との命令でやむなく香港に戻り、何とか書類を整え中国外交部駐香港特別行政区特派員公署というところでビザを申請する。ところがビザ発行には日本大使館(香港では総領事館)のレター発行が必要と言われ、在香港日本国総領事館ではレターは発行できないと言われ、国と国の狭間に落ちた私たちは万策尽きて妻の中国入国をあきらめざるを得ないという結末を迎えたのであった。

 中国入国断念までに5日間を要したが、休みはあと5日あるので気を取り直して香港の隣のマカオに3泊4日で行き、それはそれで楽しんだものの中国で計画していたことはすべてキャンセルとなり何とも残念な夏休みであったが、普通の海外旅行ではまず経験できない貴重な体験をした夏休みでもあった。また、困難な状況に遭遇したことにより、普段別れて暮らす夫婦の絆を深めた旅でもあった。

 以下に詳細を紹介するので、興味をお持ちの方はご一読を。 

福田口岸

 口岸とは出入国検査場のこと。香港と深センの間にはいくつかの口岸があり、福田口岸(フーティエン・コウアン)は、深センの自宅に近く香港のMTR(地下鉄)の駅に接続しているため普段はここを利用している。

 土曜日の夕方、香港市内のホンハム駅からMTRに乗り、終点の落馬洲駅に到着した私たちは駅につながる香港側出国審査を30分近く並んで通過し、全長300mはあろうかという深セン河にかかる橋を渡る。これは橋と言っても屋根つきの巨大な通路で動く歩道もある立派な建物だ。上の階が中国から香港行き、下の階が香港から中国行きで一方通行になっている。

 橋を渡りきると中国側入国審査で、ここも混雑しており30分近く並んでまず私が通過。妻の順だが、何か言われており通過できない。係官によると公用旅券の場合、中国入国にはビザが必要だが、ビザを取得していない、よって入国できないとのこと。

 ではどうすればよいのかと聞くと、香港に戻るか、羅湖口岸(ルオフー・コウアン)か皇崗口岸(ホァンガン・コウアン)に行けばビザが取れるかもしれない、羅湖の電話番号を教えるので自分で聞けとのこと。そのうち、大勢人が並んでいるので邪魔にされて、インフォメーションデスクの所へ行って指示に従えという。妻は中、私は外から互いに見失わないよう30mほど離れたインフォメーションデスクに行く。

 妻は公用旅券では一部の例外(北朝鮮など)を除いてどこにでも行けると聞いており、パスポートにもそのように記載されているため、ビザが必要というのはイミグレの間違いなのではないかというので、私が会社の人に電話をして広州の日本国総領事館の電話番号を教えてもらって聞いてみるが、答えはビザ必要。どうすればよいかは、口岸の指示に従ってくださいとのお役所的対応。

 一方、羅湖口岸か皇崗口岸に行けばビザが取れるかもしれないとの話もあったので、本当に取れるかどうか、この辺の難しい話になると言葉が苦しいので別の日本語のできる中国人同僚に電話して、羅湖口岸に聞いてもらったが、羅湖か皇崗では深セン市内に限り5日間のビザが取れるとのこと。深セン市内限定では行動が制約されるが、全く中国に入れないよりはましということで行ってみることに。

 羅湖駅は、落馬洲から香港方向に1駅戻り、そこからY字型に枝分かれしたもうひとつの枝に沿って1駅行った終点にある。皇崗口岸は、バス、自動車用なのでここからでは行くのが難しい。

 ひと口に羅湖に行くといっても、妻はイミグレの中(中国でも香港でもない真空地帯)、私は外側(中国側)にいるので一緒に戻ることができない。まずは、私が大きい妻の荷物を、妻が小さい私の荷物を持っていたので、万一再会できない場合に備えて、荷物だけをフェンス越しに交換させてもらう。そして妻には、ここからは何とか自力で橋を渡って香港側のイミグレを通過して、MTRのエスカレータの下で待っていろ、と伝える。いまいる階からは一方通行の橋を逆行することになるのでどこかで非正規ルートを通らねばならず難しい指示ではある。

 私は、いったん福田口岸の外に出て、外階段から香港へのルートをたどることにする。イミグレというものは一方通行にできているので、途中からは戻れないのだ。これが福田口岸の中国側の外観だ。

福田口岸

 右手の外階段を上がり、中国側出国審査を通過。夜で逆方向なので空いている。早足で橋を渡り、香港側入国審査を通過。するとそこには先に来ていた妻の姿が!よかった。再会できた。

 妻の方は、係官は中国語と手振りで香港へ戻れと言うだけで、英語は全く通じず戻り方もわからない、電話かけてもつながらないし、もうダメかと思ったとのこと。さぞかし心細かったことだろう。でもよく一人で来れたね。

 電話を国境でかけるのは面倒だ。妻が香港側からかけるとして相手の私がどこにいるかによってかけ方が変わってくる。中国側にいるなら、私の中国携帯の番号に中国国番号+86を追加する必要があるし、橋の上だと電波が来てるのかわからずつながらないかもしれないし、香港側に来ていれば、私の中国携帯はローミングしてないので、こんどは香港携帯の番号に国番号+852はつけずにかけることになる。私の日本携帯の番号に日本の国番号+81をつけてかけるのが電話代はかかるが一番つながる可能性が高かったかもしれない。この日本携帯は世界中どこでもローミングしているので中国に居ようが香港にいようがかかるからだ。しかしこういう困難な状況下で適切な方法で間違えずに電話をかけるのは難しいものだ。

 再会できたので、MTRの改札を入る。ところが妻が入れない。日本のSuicaのような香港のオクトパスカードのチャージが切れたらしい。チャージのために妻の姿が見えなくなる。なかなか戻って来ず心配。このとき、すべてのゲートは妻を先に通すべきことを悟る。

 ようやくチャージしおわり、MTRで一駅、上水駅まで戻る。一応羅湖口岸には行ってみるものの、恐らくダメであろうと思って、土、日2晩のホテル予約を香港にいる会社の人にお願いしておいたので、電話がかかってこないか注意しながら羅湖行の電車に乗る。このMTR東鉄線は大半地上を走っているので地下鉄というよりは電車という感じ。

羅湖口岸

 MTR羅湖駅に到着、香港側出国審査を妻、私の順に通過し、羅湖口岸のやはり深セン河にかかる橋を渡ると、ポートビザの表示があったので上の階に進む。待っている人は誰もおらず、窓口の中に係官が一人。ビザを申請したいと言うと、下に行ったのか、まずはそこで入国できないか審査を受けろ、そこでダメならここへ来てもダメだ。じゃあどうすればいいんだ?回去香港!!(香港へ帰れ!!)すごく居丈高な対応で、私はまあそんなもんだと思っているが妻は怒られたみたいでいやな感じだったと。

 やむなくダメ元で入国審査の列に15分ほど並んで妻を先に行かせるが、公用旅券はそれだけでシステムでダメ表示が出るらしくビザなしは入国不許可。ここでは、値班(当直)隊長という腕章をした日本語を話せる人が出てきて中国にしては丁寧な対応だった。何をしに行くのか聞くので旅行と夫を訪ねると答えたところ、一瞬入れてくれるかと思ったが、しかし結論は変わらず、香港でビザを申請してくださいというので、ビザを申請できる場所の所在地を書いたメモをくれうようお願いした。その頃にはMTRの終電が迫っており、早くしてくれという気分。

 30分ほどしてようやく係りの人が戻ってき、2人のパスポートにプラスチックの札をはさみ、香港に戻るルートまで非正規ルートを付き添ってくれた。ところが橋のところは中国出国用のルートではないところで札を回収して解放され、ここから逆戻りしろと言われたので、結局香港側で変なところに出てしまって見とがめられ、そこで香港に帰れと言われたと説明し、また非正規ルートを通してもらって、ようやく香港側入国審査場へ。

 そこを通過してMTRの改札を通過するときには、夜の11時25分だったのだが、頭上にゲートクローズまであと25秒というカウントダウン表示が出ており、結構危ないところであった。

 終電の一つ前くらいのに乗ったところでホテルが取れたか電話をするも、土曜夜で会社料金で泊まれるところはいっぱいでまだ取れてないとのこと。終点のホンハム間際で電話がかかって来て、ようやく取れたが土曜日2,000HKD、日曜日1,600HKDで泣きっ面に蜂の高さだが、やむを得まい。その夜は12時半頃にようやくチェックイン。ホテルはなぜか赴任の時に香港で一泊したときと同じ、8度海逸酒店(HARBOUR PLAZA 8 DEGREES)というホテル。疲れているのにロビーが8度傾いている錯覚でめまいがした。

 それから食事に出かけたが、ビールはコンビニで自分で買って来て飲むという面白いやり方になっていた。また夜中で面倒なので同じものを二つ注文したら、これとこれとに分けて注文してシェアした方がいいという有用なアドバイスをしてくれて最後はちょっとほっとした。寝たのは2時。かくして長い一日が終わった。

中国外交部駐香港特別行政区特派員公署1日目

 日曜日は、特派員公署も休みなので遅く起き、朝昼兼用の食事をB級グルメの茶餐庁で摂った。日本のファミレスのようなもので香港独特のスタイル。中華から洋食、スイーツまでいろんなものが食べられる。この日はこんなものを食べた。

茶餐庁にて

 ホテルに帰ってから、中国外交部駐香港特別行政区特派員公署のホームページにアクセスし、ビザ申請書をダウンロード後、ホテルのビジネスセンターでプリントアウトし、必要事項を記入する。写真は持っていたので助かった。

 月曜日は、いよいよ特派員公署に行く。9時受付開始で、余裕を持って出たはずだったのだがタクシーがなかなか来ないうえ、道路の渋滞が激しく、九龍半島側から香港島に渡り、湾仔(ワンチャイ)港湾道の華潤大厦というビルにある特派員公署についたのは9時半。すでに3重折り返しの行列ができていた。月、火はホテルを香港島の銅羅湾(コーズウェイベイ)の安いホテルの代えたのでスーツケースを持っていたら、通りかかった人に大きな荷物は持って入れないからその裏のクロークに預けなさいとアドバイスを受けた。手荷物のX線検査を受ける列が動少しずつ動いている。20分ほどで建物の中に入り、3階にあがると申請書をチェック後、パスポートのコピーを取るように指示され、コピー後受付番号札をもらって、順番を待つ。窓口は10か所くらいあるため、わりと早く進み、30分ほどで窓口へ。
 
 さて、この窓口では日本人は中国に入るのにビザなんかいらないととんちんかんなことを言われ、逆に公用旅券ではビザが必要なんだとこちらから説明し、そうしたらだんだん訳のわからないことを言われ始め、隣の窓口へ行けと。するとそこには日本語を話す男の人がいて、少し待ってください、これ終わったら対応しますから、と言ってくれる。なんと仕事で来ていた在香港日本国総領事館の若手の副領事さんだったのだ。

 で、副領事さんが聞いてくれたところでは、妻の職場から妻の身分、仕事内容、渡航目的などを書いたレターを発行してもらう必要があり、総領事館ではそれをメールで受け取ってくれるとのこと。

 ここまでわかれば、午前中特派員公署ですることはないので、副領事さんにお礼を述べ、ホテルにチェックインして職場に連絡することにする。

The Charter House
 

在香港日本国総領事館

 職場よりもうすぐレターを発行するという連絡を受け、移動時間も考えメールを受けてくれる在香港総領事館のある中環(セントラル)の交易広場(エクスチェンジスクエア)というビルへ。エスカレータで3階に上がってスターバックスコーヒー店の前で待つこと1時間。領事さんがメールを持ってきてくれた。
 早速再びタクシーで特派員公署に行く。6時までと聞いていたのだが、5時で閉まっており、アウト。

 ビザ申請後の交付までの日数は、1週間もかかったのでは帰国後になってしまい意味がないのだが思いのほか速く、Regular servise(標準)で4日間、Express service(特急)で3日間、Rush service(超特急)で2日間(翌日交付)ということがわかったため、俄然期待を持ってRushで明日夕方交付を目指したのだが、締切りのため仕方ない。明日出直しだ。

ビールでお疲れ様!

中国外交部駐香港特別行政区特派員公署2日目

 火曜日は、ホテルから近いので歩いて行く。8時頃に到着、12,3人並んでいる。3階に行って番号札を取るとすぐに呼ばれるが、窓口の女性は英語も中国語(広東語なまり)もわかりにくく、わからないと怒り出し、結局くれたメモ(印刷物)で往復の飛行機のチケットコピー、中国でのホテルの予約証もしくは中国で受け入れる人(私)の就業証明証のコピーなどがいることがわかった。メモがあるなら最初に出してよね。

旅行ビザ(L)の申請に必要なドキュメント

  • 旅程表(往復の航空券予約票を含む)
  • ホテルの予約票または中国国内招聘元会社または個人の発行するインビテーションレター
  • 招聘元会社の営業免許または個人の就業許可証コピー
  • インビテーションレターには以下の内容を含むこと
    ・本人の名前、性別、誕生日、到着日、出発日、旅行地点
    ・招聘元会社または個人の名前、連絡先電話、住所、社印、代表者または個人のサイン

 この、旅行ビザの(L)というところでLはLongのLではないのか、短期滞在だから不要なのではとの疑念も抱いたが、Lは中国語の旅行を意味する旅游(Lvyou:リュウヨウ)のLであった。

 それらを有料コピー機でコピーし、この窓口は感じが悪いので昨日のお姉さんの窓口に持っていくと、今度はこれだけでは不十分で日本国大使館のレターが必要だという。現在の身分、渡航目的、渡航都市などを日本国が保証することを求めているのだ。

 領事さんに電話すると、レターは不要でこれだけで十分なのでこれで押してください、領事館としてはレターを発行することはできないし、できることはここまでです、と言われてしまった。あとはどこまで押せるかだが、困ったな、どうしようかと思っていたら、昨日の副領事さんが現れ、一仕事済ませたら対応しますということで地獄に仏とはこのことかと。

 副領事さんはがんばって交渉してくれたが、中国側は日本大使館(もしくは領事館)のレターが必要、日本の総領事館はこれは妻の職場と中国側との案件で、総領事館はこれを橋渡しするだけでレターは出せない。申し訳ないが、できることはここまで、とのことでついに断念せざるを得ないことを認識したのであった。

 もはやこれまで。妻の帰国日まであと5日あるのに、私は香港1泊分の着替えしか持っていなかったので、いったん深センに戻って出直すことに。戻ったときに、外国住まいの妻のために食べさせようと思ってイオンで買っておいた鰻の蒲焼で鰻丼を作り、朝食用に買っておいた美味しいパンと高いハムでサンドイッチを作り、晩酌用に買っておいた点心をあたためて香港に持ち帰り、イギリス風の小さな部屋のホテルでヤケ酒を飲んだのであった。

The Charter Houseの小さな部屋

公用旅券では中国に行けないのか?

 今回、「中国入国不可」となった原因は端的に言えば、公用旅券においては必要な中国ビザを取っていなかったことだ。公用旅券は一般旅券よりも優れており一般旅券でできることが公用旅券でできないはずがない、という思い込みもあったし、他にも色々考えられるがここでは割愛する。

 さて、中国側が公用旅券の場合に、日本大使館のレターを要求し、日本側が個人の旅行のためにレターを発行しない以上、公用旅券では中国に個人旅行には行けないと考えられる。
 今回は香港の総領事館がレターを発行してくれなかったが、仮りに事前にわかっており日本国内で中国大使館にビザ申請をしたとしても、外務省はこのようなレターを発行しないものと思われる。

 しかし、中国側が日本の公用旅券に対して大使館もしくは領事館発のレターを要求するのは、ある意味理にかなっているのではないだろうか。公用旅券所持者は、日本国政府のミッションを帯びて渡航してくると考えられ、日中関係が微妙な現時点においては、渡航目的などを日本国政府が保証するべきというのは真っ当な考えと思う。それに対して、日本側が公用旅券を持たせているのにレターを発行できないというのはおかしくないだろうか。
 こう考えて行くと本来の公用目的ではないのに、公用旅券で休暇を過ごすために旅行をするということ自体がおかしく、休暇を過ごす場合には一旦公用旅券を回収し、一般旅券を本人に返却するというのが正しい姿と思える。

 なお、現地で困っているときに力を貸してくださった総領事館の方々には、国としてできることの限界を感じさせられたものの、個人的にはたいへん感謝しており、今後も海外で活動する日本人に力を貸していただければと思う。また妻の職場の方々にもタイムリーにレター発行という最大限のご尽力をいただきあらためて感謝の意を表する次第である。

マカオ

水曜から土曜までは気分を入れ替え、セントラルから高速船に乗ってマカオへ行く。

世界遺産の聖ポール天主堂跡をモンテの砦から見下ろす。
聖ポール天主堂跡

古い市街で甘味店を探す。
古い市街

コロアン島の漁村で干魚を買う。右端の長さ30cmほどの魚を買ったが、身の色といい苦み走った味といい、めざしそっくりだった。
コロアン島の漁村

コタイ地区のカジノ、ギャラクシーのホール。
時間がくると雷鳴とともにこの噴水が上下に動き、なかなかきれいだった。
Galaxyのホール

香港

土曜の午後、香港に戻り、セントラルの山の中腹にあるビショップレイインターナショナルハウスに泊まる。これはホテルの窓からの景色。
Bishop Lei International Houseからの眺め

山の中腹にあるので、下に降りると戻ってくるのが大変だが、斜面に延々と続くエスカレータを利用すると楽しく帰ってくることができる。
写真はエスカレータを上から見下ろしたところ。
セントラルの斜面に続くエスカレータ

かくして、日曜昼に香港空港で妻を見送り、想定外の香港・マカオ滞在は終わりを告げたのであった。

(2014/9/15)

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