製作記事

40年前自作機TX編

40年前自作機TX編

本編は甦る40年前自作機の続編で、50MHz SSBトランシーバ 送信機部分です。

Tr PA~S2001終段

未完成だったところは?

12BY7A-S2001という当時お決まりの構成の真空管リニアアンプ部が未完成でした。

12BY7Aはプリント基板に組んだのですが、これが発振してどうにもならず放棄、1Wのトランジスタ出力をS2001に直接つなげたものの動かなかったようです。

1Wのトランジスタ出力のみでは1,2度だけ交信したと思いますがほとんど記憶にありません。

目標

当初の目標であった10Wの出力を12BY7Aなしで得ることを目標とします。

当時、12BY7A-S2001(6146)が標準的でしたが、12BY7AなしでS2001だけというのも見たことがある気がするのと、12BY7Aを発振しないようなしっかりとした実装に直すのはスペースもなく苦しいということから2SC799-S2001直結構成でチャレンジします。

10W出力とは?

SSBは尖頭電力で表示されます。
それでは尖頭電力とは何を意味するのでしょうか?
(知っておられる方は本項は読み飛ばしてください。)
ピークパワーのことだとは思いましたが、これまで明確に確認したことはあなかったので調べてみました。

電波法施行規則によると
「尖頭電力」とは、通常の動作状態において、変調包絡線の最高尖頭における無線周波数一サイクルの間に送信機から空中線系の給電線に供給される平均の電力をいう。

尖頭電力説明



電波法施行規則には図がありませんが、こんな感じです。


よく何(Vpp)というときのpeak to peak電圧の考えとは異なるわけですね。SSB波では上記の無線周波数は正弦波なので、そのピーク電圧がE(Vpp)、アンテナ(擬似負荷)のインピーダンスがZとすると(E/2√2)^2/Z が尖頭電力となります。

現状把握

送信部構成

40年前のCQ Ham Radio誌の製作記事(1973年7月、8月のCQ ham radio誌に連載されたJH1QZT OMの「50MHz用SSBトランシーバー」製作記事)をもとに、自分がそれをどう変更して作ったかの記録(回路図等)を整理し、かつ実機でそれがどのように改造されているかを調べます。

その結果、送信部は以下のような構成になっていることがわかりました。

(LA3020(MIC AMP),2SK19(Carrier OSC))→μPC32C(DBM)→Xtal Filter(9MHz)→μPC31C(1st MIX) →3SK35(2nd MIX)→2SC458(RF1)→2SC781(RF2)→2SC799(Tr PA)→12BY7A(DRV)→S2001(Final)

8.9985MHzのキャリアと音声信号をカラーTVの色復調用ICであるuPC31C/32Cをダブルバランスドミクサ(DBM)として用いることによりDSB信号を発生、9MHzのクリスタルフィルタを通してSSB信号としたあと、VFO(5.0~5.6MHz 上記構成中は省略)と(1st)MIXして14MHzを作り、さらに36MHzの局発(上記構成中は省略)と(2nd)MIXして50MHzに上げ、トランジスタ3段で1Wの出力としています。
ここまでがJH1QZT OMの記事にほぼ従って作ったところです。VFOや局発などは適宜別回路を用いてします。

このあとの真空管リニアアンプ部は当時出ていたOMの皆様執筆の各種記事を取り混ぜて作りました。

12BY7Aのドライバ基板は廃棄されて存在せず、そこまで来ていた高圧配線とヒータ配線が収縮チューブを被せて放置されていました。

どう動かないのか?

準備作業

やみくもに動かしても訳がわからないので多少の準備をします。

1.トーン発生器

送信系チューニング兼CW用にシングルトーン発生器を内蔵していますのでまずこれが動くか確認します。

シングルトーン発生器

→2.48Vrms、1.084KHz やや歪んでいますが概ね正弦波が出ています。

2.各段レベルと波形の確認

上記シングルトーンを入れてDBM ICの出力、1st MIX out、2nd MIX out、RF1、RF2、Tr PA、S2001グリッド、と順に波形とレベルを確認してゆきます。各段の波形はオシロのプローブで当たると同調がずれるのと、そもそもテスト端子が出てないので当たれるところだけ見てゆきます。

SSB Gen~RF2

DBMの出力からして上下がクリップした波形になっていますが、とりあえず信号は通っています。
2nd MIXはデュアルゲートFETのため、受信系であったGate2のバイアス問題の修正を送信系でも適用し4~5dB倍程度変換ゲインアップしました。

この時点でS2001グリッドではおよそ30Vpp出ていました。

3.終段の中和

発振しないよう終段S2001の中和をとります。
高圧をかけず、ヒータのみ点灯します。
S2001のプレートキャップを外し、スクリーングリッド電圧を安定化している定電圧放電管VR150MTを抜くと高圧が切れます。
本項を書きながら、なぜVR150MTを抜くと高圧が切れるのだろう、安定化する前の190Vが出てくるのではないかと不思議に思ったのですが、これはプレートの2番ピンと5番ピンがVR150MTの内部でつながっており、5番に入力し、2番から出力を取り出すように使うと管を抜くと高圧が切れるのですね。昔ながらよく考えられていると感心。

RF電圧計がないのでありあわせのラジケータとダイオードを適当なコイルと組み合わせてパイ型回路のコイルに近づけるも全く振れず、オシロのプローブが高周波では結構誘導していたことを思い出し、プローブのアースクリップをプローブ先端につなぎループアンテナのようにすると、ばっちり検出。
中和調整用のトリマコンデンサを回して調整しましたが、トリマが一番抜け切ったところで最もレベルが低く、ほとんど中和は不要だったようです。

4.プレート電流計の校正

これは、S2001のカソード電流を分流して電流を測るようになっているので電流計にシリーズに入れているVRを調整して校正します。

S2001を抜いて、高圧は切った状態で送信モードにし、アナログテスタを電源として、DMMをシリーズにカソードにつなげ、DMMの表示とプレート電流計の表示が同じ値を指示するようにVRを調整しました。

終段の入り口まで動かしてみる

1.内蔵のトーンOSCで約1.1KHzのシングルトーンを入れてみます。
→BMの音声入力が完全にサチって方形波になっていたので400mVppを越えないようにとの記事にしたがいトーンOSC出力にVRを追加してレベルを調整。

2.中間の波形は当たりにくいのですが、BM出力以外はサチっているところはなさそうなのでアンテナ端子に75Ωダミーロードをつなげてオシロで波形を観測します。

SSB波形??



SSBの波形ですね。
実はこの波形があとで問題になります。

→28.4Vpp出ています。
 尖頭電力としては、(28.4/2.828)^2/75=1.34W

注.プローブの入力容量が13pFほどあるのでその影響を確認しておきます。50MHzで13pFはXc=245Ω
75Ωと-j245Ωのパラで|z|=71.6Ω 
71.6Ωだと1.41Wなので5%ほど小さく見えていますが大差ないので無視します。以降も同様に無視します。

当時は、RFパワーメーターなし、オシロなし、でパワーを唯一視覚化する方法として100W白熱電球をつなげたものの、全く光らないという状態であったために「動かない」と判断したものと思われます。

さて、目標10Wに対して現状1.34Wなのでここがスタート台のようなものです。

終段を動かしてみる

S2001の動作点は?

まず使用デバイスのデータシートがないとどのように動かすべきかわかりません。
ネットを調べると、RCAの6146Aと6146Bのデータシートが見つかりました。これが見つかったもののなかでは一番詳しいです。
松下のS2001は、6146の廉価版というようなイメージがあるのですが、AかBかどちらだろうと思っていたら1968年のCQ出版社の真空管規格表に6146B(S2001△)との記載がありました。△印の意味はわかりませんが概ね6146Bということなのでしょう。

RCA 6146Bのデータシートによると

Linear RF Power Amplifier Class AB1
 Single-Sideband Supressed-Carrier Service
という項目でCCSとICASの2通りのデータがあるのでICASの方を見ます。

  • CCS:Continuous Commercial Service
  • ICAS:Intermittent Commercial and Amateur Service

ということなので、アマチュアのICASの方です。

この規格によるとプレート電圧Ep=750Vmax、スクリーングリッド電圧Esg=250Vmaxで、尖頭電力PEP=61Wmax出るとのことです。
因みに本機のプレート電圧は380V、スクリーングリッド電圧は150V。

ちょうどスクリーングリッド電圧Esg=150Vにしたときのプレート電圧Ep対プレート電流Ipのカーブがコントロールグリッド電圧Ecgを-40Vから10V刻みで+20Vまで変化させた7本記されています。

プレート電圧Ep=380Vのところを見ると、EcgとIpの関係はおよそ下表のようになります。10W程度が目標なのでグリッド電流が流れないAB1級でEg=0V以下で使用します。

Ecg Ip 備考
0V 220mA 最大値
-10V 180mA    
-20V 100mA    
-30V 40mA    
-40V 10mA

実際に調子を見た結果、バイアスはEcg=-33VでIp=20mAとしました。
これで、トーン入力時S2001グリッドで30Vppですから、計算上はEcg=-33V±15Vということで、+側でEcg=-18VなのでピークでIp=120mA程度、実効値で言うとEcg=-33V±10.6V、+側ではEcg=-22.4Vなので平均的にはIp=85mA程度が流れそうです。

実測すると

実際には、トーン入力時にIp=90mA程度が流れています。
75Ωのダミーロードをつなげたアンテナ端で最高108Vpp出ていたので
尖頭電力PEP=19.4W けっこう出てます!

音声を入れてみる

トーンOSCの出力とMIC出力がワイアード接続の形でSSB generatorに入力されており、両出力が干渉してVR調整がうまくできなかったため、モード切替用ロータリースイッチの空き回路を利用してお互いの回路を分離しました。

この状態でしゃべるとメータ振れのピークでIp=60mAくらい流れます。ALCメータに切り替えると全く振れずグリッド電流Igは流れていないことがわかります、と言いたいところですが、ALCメータ回路が動作していない恐れもあります。

Ecg=-20VにするとIp(idle)=80mAも流れ、音声でALCメータが振れるようになります。これでALCメータ回路は動いていることが確認できました。
これでトーン入力すると、Ip=120mAも流れます。

EcgとIg、Ipの関係が大体わかったので、
Ecg=-32V、Ip(idle)=20mA、しゃべった状態でIp=85mA
の状態に一度合わせ直しておきます。

この辺まで来ると一度このパワーで電球を光らせてみたくなります。
100Wボール電球はスモークタイプのせいか光っているかどうかわかりません。それではと、60Wボール電球クリアタイプに替えてみるとコイルの部分が赤くなることがわかりました。弱弱しいが一応光っています。

電球負荷1

AFのVR調整が不安定なので再調整、終段も再調整し今度はそれらしく光るようになりました。

電球負荷2

75Ωダミーロードで約80Vpp、
尖頭電力としては、(80/2.828)^2/75=10.7W
となります。

どうにか10Wの目途がついてきたので、この後はもう少し細かく見てゆきます。

75Ω系と50Ω系の比較

ダミーロードの製作

40年前のハムの世界では垂直系のアンテナを除くと75Ω系が主流だったので、それにあわせた75Ωダミーロードを使って評価をしてきました。
しかし、現在は50Ω系が主流で私のアンテナも50Ωなので50Ωのダミーロードを作ってアンテナパワーに差が出ないのか調べることにします。

ダミーロード 75Ω/50Ω

左側が40年前に作った75オームダミーロードで、3W300Ωの金属皮膜抵抗を4本パラにしてバナナチップ(短)と銅板を組み合わせてM型コネクタ(メス)に挿せるように作ってあります。

右側が今回作った50オームダミーロードでこれは3W200Ωの酸化金属皮膜抵抗を4本パラにしたものです。バナナチップは短いのがなかったのでそれに合わせて銅板細工のサイズも変えています。

因みに抵抗の高周波特性は調べてもよくわからず、金属皮膜と酸化金属皮膜の差はわからなかったのですが、以前と同じ金属皮膜は入手できず酸化金属皮膜になりました。

測定結果

75Ωダミーロード使用
 約92Vppなので、
 尖頭電力としては (92/2.828)^2/75=14.1W

50Ωダミーロード使用
 約76Vppなので、
 尖頭電力としては (76/2.828)^2/75=14.4W

でほぼ同じ値となります。
これはシングルトーンでの測定なので波形としてはCW、つまり振幅一定の正弦波となりますが(SSB波形とは、の項を参照)、音声を入れたときのピークも同じ値であり、AFのVRをいくらあげても、あるいは終段タンク回路の調整をしてもこれ以上は大きくならない飽和出力になっています。

注.同じ75Ωでの測定値も前回と少し異なりますが、日を改めて再調整しているのと、真空管が完全に暖まるまで待たずに測定していることもありますので気にしないでください。

終段のパワーゲインは?

1Wを10Wにブーストするために12BY7A-S2001という構成がスタンダードだったと思うのですが、12BY7Aなしであっけなく10Wが出てしまったので実は前段のTr PA 2SC799で1W以上出ているのかもしれないと思い、2SC799からS2001グリッドへの接続を切り離し、2SC799の出力を75Ω抵抗で終端して電圧を測定してみました。

うーーん、12Vppしか出ていません。
 尖頭電力としては (12/2.828)^2/75=0.24W

おかしい、インピーダンスマッチングが取れていないのか全然1Wに足りません。
2SC799の出力回路のコアをいじるも大きな変化はありません。
ここはわからないので深追いせずにパスし、元の接続に戻しました。

なお、本測定の前に改めてDBM以降の各段を最大に調整したのでこの状態で終段を見ると、

 50Ωダミーロードで約90Vppなので、
 尖頭電力としては (90/2.828)^2/50=20.1W

終段入力回路を調整 20Wを出力

S2001グリッドのRF電圧を最大化するために入力回路の調整をします。

回路の話をするのに、回路図がないとやはり読まれる方にはわかりにくいと思うので、手書き回路図を清書しました。

終段回路図

  • グリッドにオシロのプローブをつなげて50MHz同調回路のトリマコンデンサ(TC)を調整します(下方写真参照)。元の状態は、TCの羽根がほんの少しだけ入っている状態だったのですが、プローブをつなげるとTCの羽根が抜けきった状態でも同調がとれません。
    プローブ入力容量13pFがパラ接続になったためです。
  • 現状入力50MHz同調回路のコイルの巻き数は1次側(L1)3.5T:2次側(L2)9.5Tですが、プローブ入力容量がパラになっても同調できるよう2次側巻き数を6.5Tにすると、同調しグリッド入力で27.8Vppとなるものの、アンテナ端で50Ωダミーロードで62Vppと出力が減ってしまいます。
     同調するものの、1次-2次の昇圧比が稼げないためと考えられます。
  • 結局2次側巻き数を8.5TとするとTCがちょうど半分入ったところで同調しアンテナ端で96VppとなるのでこれでFIXします。この状態ではオシロをつなぐと同調しないのでグリッド電圧は直接観測できませんが、巻き数から比例計算すると
       27.8Vpp×8.5T/6.5T=36.4Vpp
    程度と推測されます。

終段部シャーシ下面

グリッドバイアスEcg=-32Vですから、シングルトーン信号のピークで
Ecg=-32V±18.2V、+側ではEcg=-13.8V なのでグリッド電流が流れる心配はありません。
平均的には、Ecg=-32V±12.9V で+側ではEcg=-19.1V
なので平均的にはIp=100mA強が流れそうです。

プレート電流計での実測値は
Ip=80mA
程度でした。

予測と異なりますが、実験ノートをよくみるとこのときEcg=-36Vの
記録があり、そうだとすると、平均的には、Ecg=-36±12.9V で
+側ではEcg=-23.1V なのでこれだと平均的にIp=80mA程度で
あっていることになります。

このEcgを何で測定していたかは問題です。
DMMで測ったのか、オシロの表示値だったのか。
この辺は今後の実験ではもっときちんとやる必要がありそうです。

さて、この時点でアンテナ端では96Vppですから
 尖頭電力としては (96/2.828)^2/50=23W
となります。
ダミーロードの銅板の部分を指で触れるともうチンチンに熱くなっています。

この他にトライすることは、1次側コイルの巻き数調整ですが、これは直列に何pFか不明ですがTCがつながっており、TCの調整で極大値に合わせられるのと、昇圧比を稼ぐために巻き数を減らすとそのためにTC側容量が増えL両端に発生する電圧が下がって昇圧比アップと相殺しそうなので触らないことにしました。

また、このコイルは現在空芯ですが、トロイダルコアに巻いて結合ロスを減らすことが考えられ、これは10W出なければ実行するところでしたが今回は目標達成ということでやらないことにします。

プレート効率

上述の23W出力時、Ep=380V、Ip=80mAなので、プレート入力電力は
 380V×80mA=30.4W となります。
Ip電流計はカソード電流を測っているので、スクリーングリッド電流3~4mA
max程度を含みますが、その辺はざっくり計算です。
 23W/30.4W=76% 
電波法ではSSBのプレート能率は50%(3MHz~23MHzでの規定なので50MHzは外れていますが)と書かれていますので高すぎるのではないかという疑問がわいてきます。

しかし、電波法の記載は、音声送信時の平均的な効率ということと思いますす。
今回測定したシングルトーン変調波(あとで述べますがキャリアと同様の振幅一定波形)なので最大効率となっているのでしょう。

バイアス電流(アイドリング電流)はIp=20mAなので、無信号時でも
 380V×20mA=7.6W
という無駄飯を食っています。

シングルトーン変調時のプレート入力電力は
 380V×80mA=30.4W 
ですので、変調時の正味の電力は無駄飯を差し引いた
 30.4W-7.6W=22.8W
となります。
これが即ちアンテナ端では測定した波形から計算した高周波電力にほぼ等しいのですが、このときの効率は
 22.8W/30.4W=75%
ということになり、76%という値は概ね間違っていないことがわかります。

ただ、これはあくまで飽和出力の振幅一定時なので、音声信号で変調をかけたときは
効率が下がります。
例えば、小振幅のシングルトーンを入れてIp=30mA 時を考えると。
 (380V×30mA-380V×20mA)/380V×30mA=33%
が効率となります。

大小様々な振幅を含む音声信号では平均的に50%と電波法ではみなしているのでしょう。

SSB波形とは?

あとで問題になると予告したこのSSB波形ですが、皆さんはどう思われますか?
何ばか言ってんだ、という人はここは読み飛ばしてください。

SSB波形??



私の頭には40年前にSSBの波形とはこういうものだ、と刷り込まれていました。

ここで問題です。

A. 8.9985MHzのキャリアに1KHzのトーン信号をDSB変調をかけ、9MHzのXtal Filter(帯域幅2.4KHz程度)でキャリアと下側波帯を削り取ったSSB信号(USB信号)

B. 8.9995MHzのCW信号(=キャリアそのもの)

とは同じもの(同じ波形)でしょうか?

私はAは、上の写真のような信号で包絡線が1kHzになっているのだと思っていました。実際オシロで見てもそう見えますし。
(実は時間軸をよく見ると500nS/divで1KHの見える500μs/divとは千倍違っていました^^;)

SSBは振幅変調の一種なので、変調信号が包絡線として見えなければ1KHzのトーン信号で変調をかけたときと2KHzのトーン信号で変調をかけたとき波形を見て見分けがつかなければおかしい、と思ったのですね。

ところがそうではないのです。
なぜか?
それは周波数スペクトラム図を描いてみるとわかります。

シングルトーン変調のSSB

1KHzのトーン信号と2KHzのトーン信号は振幅の変化ではなく、8.9985MHzのキャリアの位置からどれだけ離れた位置に来るかということ表現されるのです。シングルトーンの信号はキャリアがなければ、正しい周波数に再現することはできないのです。SSBとはそういうものです。

音声信号では各種の周波数成分が含まれているので、各々の周波数の高調波成分が正しい位置にくるようにキャリア注入位置を耳の感覚でコントロールしている、ということになるのだと思います。

よってAとBは同じ波形です。

実際に本機で観測した1.1KHzのシングルトーン信号で変調をかけたSSB信号の波形は以下のようになります。

シングルトーン変調のSSB=CW

では最初の写真は何だったのでしょう?
あのような波形はツートーン信号で変調をかけたときのSSB信号の波形なのです。
どういう信号で変調をかけたかときの信号かということは頭から吹っ飛んでいて、とにかくSSB信号はこういうものだ、という長年の思い込みがあったのです。それでオシロの時間軸が千倍違っているのにSSB信号が見えた!と思いたいばかりに信じてしまいました。

ああ恐るべし、偉大なる思い込み!

ではなぜあのような写真がとれたのか?

これは中国製オシロ使用の中で述べたように、デジタルオシロ特有の量子化のいたずらです。アナログ信号をサンプリングしてデジタル化するときの量子化誤差とCRTでなくLCDで表示することによる誤差があいまって、あのような、頭の中で希望する波形を捉えてしまったのです。
オシロの時間軸を変えてゆくとあのような波形で同期がとれるのは1つの時間軸しかなく、時間軸によっていろんなモアレもしくは擬似輪郭のようなものが発生し、どれが正しい波形かを判断するのはなかなかむずかしいものです。

では実際にツートーン信号を入れてみるとどうなるでしょうか。

シングルトーン発生器はひとつしかないので、もうひとつシングルトーン発生器を作ろうかとも思いましたが手近に使えるものがないかと考えたところ、ありました!

ギター等の調弦用音叉と小学生の頃の縦笛(いま風にはリコーダー)です。縦笛はこの自作機よりさらに古く50年前のものです。我ながらなんと言うもの持ちのよさ。因みに音叉は高校の頃買ったものなので自作機と同世代です。

縦笛と音叉

やり方はこうです。

  • マイクを音を拾いやすいところにセットする。
  • まず音叉をひざに打ち付けて鳴らして机の天板など共鳴して音を大きくするところに根元の玉の部分を押し付ける。
  • 音叉が鳴り止まないうちに笛を吹く。
  • 適当な波形になったらオシロのSTOPボタンを押す。

ところが、この二つの音源から音を出して適当なところでオシロのSTOPボタンを押すという行為をひとりでやるのは非常に困難です。
手が3本ないとできません。
右手で音叉を鳴らし、左手の指で適当な音の高さにするために笛の穴を押さえると、オシロのSTOPボタンを押す手はありません。

そこで、笛の穴は適当な高さの音を出すためにテープで必要な箇所を塞ぎ、口でくわえると左手が空くのでSTOPボタンが押せるようになります。
言うは易く行うは難い、しかしかなり滑稽な姿ではあります。

これで何とかそれらしい波形の写真が取れました。

ツートーン変調のSSB



音量のコントロールがうまくできないので上下がクリップされた形になっていますが、ツートーン信号でSSB変調をかけた波形です。
時間軸は上のシングルトーン信号の写真と同じです。

それらしい波形にはなっていますが、別途まともなツートーン発生器を作るつもりです。

メーカー製リグでモニターする

所期の目標パワーも達成できたので、ここまで来たらメーカー製リグ(YAESU FT-950)で本機のSSB波をモニターしてみましょう。

実はその前に、前項でシングルトーンであのSSB波形??が見えたとき、Xtal Filterが効いていなくてLSB(下側波帯)が除去されておらずDSB信号になっているのではないかという疑いもありましたので、それを確認するためにFT-950でシングルトーンの音を聞いてみました。

その結果は、LSBモードで受信しても聞こえるが、USBモードのときよりSで5くらい小さく聞こえるので、Xtal Filterは効いていると判断しました。

また、AMモードでも聞こえてしまうので、キャリア漏れがありそうです。
さらに、試しに本機を送信モードマイクにしてしゃべってみると、バサバサした音で何だこりゃという感じです。

FT-950と本機との距離が30cmも離れていないという事情はあるにしても少し調べてみる必要がありそうです。

実験風景



本機はダミーロード、メーカー製リグは近すぎのためアンテナは外してあります。

この状態で、シングルトーンで一番Sメータを強く振れるようにFT-950をチューニングしたときに、

  • シングルトーン信号は、S9+25dB
  • キャリアは、S9+5dB

くらいあります。信号に対してキャリアは20dBしか小さくないことがわかります。
(SメーターはバーグラフなのでS9以上の分解能は5dBです。)

キャリア周波数を測定すると、8.99854MHzになっています。
8.99850MHzを基準とすると、400HzほどXtal Filterの内側に寄っています。
キャリア漏れしやすい方向です。

キャリアポイントを調整

キャリアを8.99849MHzに合わせ直すと、

  • シングルトーン信号は、S9+25dB
  • キャリアは、S9+0dB

気持ち5dBくらいキャリアは小さくなりました。

日を改め、FT-950と本機の距離を4mほどとり、FT-950に50cm長のビニール被覆電線をつなげ、

キャリアを8.99803MHzに合わせ直すと、

  • シングルトーン信号は、S9+60dB
  • キャリアは、S9+5dB

でこれなら55dBくらい差があるのでよさそうです。
この設定では、8.99850MHzを基準とすると、470HzほどXtal Filterの通過帯域から離れる方向になっています。
あとは音質を聞いて、もう少し内側に寄せるか微調整です。

因みに電波法の無線設備規則第56条によると、
「搬送波電力: 一の変調周波数によつて飽和レベルで変調したときの平均電力より、R三E電波の場合においては、一八デシベル(±)二デシベル低い値、J三E電波の場合においては四〇デシベル以上低い値」
ただし、「アマチユア局の送信装置については、この限りでない。」
と記されています。

SSBはJ3Eで、業務用でも40dB以上なので55dBあれば問題ありません。

しかしテレビの音声をマイクに入れて受信機で聞こえるとふつうに聞こえるのに、自分の声をマイクに入れて受信機で聞くと、何だこれは!?というような低品質の音に聞こえるのはなぜでしょう。

アナウンサーの声に比べて自分の声が悪いのかと自己嫌悪に陥りそうですが、頭蓋骨を通して伝わる自分の声と、受信機から空間を伝わって聞こえる自分の声が干渉しておかしな音に聞こえてしまうのでしょうか。

ハム音対策

キャリア、あるいはシングルトーンを注意深く聞くと、少しハム音(50Hz商用周波数のリップルノイズ)が聞こえます。

40年前自作機の修理、の項で述べたように製作後40年も経っているので電解コンデンサは容量抜けしている恐れがあるため、基本的に全て交換したのですが、唯一高圧のブロック電解コンデンサ(350V,47uF×2)2個だけは換えていませんでした。何千円と高価だったので、ここだけは終段をやるときにしようと考えて放ってあったのです。

そこでまずはリップルの大きさを測定します。

リップル電圧元の状態



シングルトーン送信時、終段S2001のプレート電圧+380Vに対して15Vppのリップルです。

約3.9%のリップル電圧は5%以内なので、特に悪くないかもしれませんが、15Vppという絶対値を見るとこのせいかも、という気になります。

そこで、電解コンデンサを交換しました。
ブロック電解は高価なので普通の基板自立型のもので、容量を220uFと元の約2倍の容量としました。
容量2倍でも技術進歩のお蔭で元の半分くらいの大きさです。

電解コン交換前

交換前→交換後

電解コン交換後


リップル電圧電解コン交換後



シングルトーン送信時、終段S2001のプレート電圧+380Vに対して8Vppのリップル(2.1%)です。

コンデンサの容量をアップした分しか改善していないので、外したブロック電解コンデンサは特に容量抜けしていたということはなかったようです。

耳で聞いた感じでは、残念なことにハム音の大きさは以前と違いがわかりませんでした。

コーヒーブレーク

今回、ブロック電解コンが高価だったために、基板自立型のふつうのアルミ電解コンを使いましたが、この取り付けをどうしようかと悩みました。

ブロック電解コン



元のブロック電解コンは、外径φ25で、金属バンドで巻かれており、このバンドを使ってシャーシにネジで固定していました。

それで、基板自立型の電解コンも外形φ25のものを選び、元のバンドを使ってシャーシにネジで固定することを考えました。

しかし、アルミ電解コンの構造に関する疑問が。。
アルミ電解コンの底部には陽極と陰極の端子がありますが、陰極はアルミケースに対して絶縁されているのでしょうか。

調べてみるとこれは「コンデンサのアルミケースと陰極端子間は、ケース内側の自然酸化皮膜と電解液の不安定な抵抗分で接続されています(=ニチコンのアルミ電解コンデンサ取り付け注意事項)」ということで絶縁されていないことがわかりました。

また、絶縁されていなくても樹脂製の外装スリーブが被さっているのでよいのではないかとの考えもありますが、これはコンデンサ品名の表示が目的であり、絶縁を保証するものではありません。

倍電圧でない整流回路では、陰極は0Vなので、これがケースとつながっていてもいなくても問題にはなりませんが、本機では倍電圧整流回路を用いているため、2本のコンデンサの接続部は+190Vの電圧がかかっており、もし金属バンドを使ってシャーシに取り付け、外装スリーブが金属バンドのバリで破れたりすると恐ろしいことになります。

倍電圧整流回路

ラグ端子に取り付けた電解コン



よって、金属バンドでの固定はやめ、ラグ端子に取り付けたあと、ラグ端子をシャーシにネジ止めすることにしました。

なお、この電解コンをテスターで当たってみると、陰極端子とアルミケース間は導通がありました。

取り外した古いブロック電解は、アルミケースの露出部分がないため導通の有無は不明ですが、この手のブロック電解は金属バンドでシャーシに取り付け、倍電圧整流回路に使用されること考えて、きっちり絶縁がされているのかもしれません。

編集後記

色々あってなかなか集中して取り組めず、前回更新(2012年8月)から5ヶ月近くが経過してしまいました。本HPを見てくださっている方には申し訳ありません。

実験室レベルでは所期の目標達成ですが、まだ実際に電波は出していません。
自作機の申請をどうやるのかまだ全然調べていませんが、申請して許可が出てから試験電波を出そうと考えていますので、その際にはお相手を頂ければ幸いです。

また申請と並行して、ツートーン発生器も製作し、3次歪み、5次歪みといったところも測定してみるつもりです。

(2012/12/30)

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