ディップメータ
ディップメータとは
L(コイル)とC(コンデンサ)からできている共振回路(同調回路ともいう)の共振周波数(同調周波数)を測定するための測定器のことです。
被測定共振回路のコイルにディップメータのセンサ(コイル)部分を近付けてダイヤルを回してゆくと、あるところでメータの指示がぴくっと減ります(左側へ振れる)。これをメータがディップする、といいます。
ディップしたのは、ディップメータで発振している発振エネルギーが被測定共振回路に吸い取られたからです。メータがディップしたときの周波数が被測定共振回路の共振周波数であるとわかります。
製作目的
私は40年ぶりのアマチュア無線復活に際し、今後各種の無線機器を製作、もしくは過去に作った無線機を修理・改造することを考えています。
無線機の製作にはディップメータが欠かせません。
例えば、50MHzの無線機を21MHzに改造する場合、50MHzの同調回路は21MHzの同調回路に置き換える必要があります。何かの製作データに基づき、あるいは理論と経験に基づき巻いたコイルとコンデンサで構成した同調回路が本当に21MHzに同調しているかをチェックするためにディップメータが必要です。
ところが、今ではメーカ製のディップメータはすべて製造中止になっているようなので自分で作ることにしました。
製作方針
昔のようにアナログダイヤルだけではなく、周波数カウンタ内蔵とします。
ただしアナログの周波数ダイヤルは残します。デジタル表示だけでは発振出力が小さくなった場合などに誤カウントする不安があるためです。アナログダイヤルがあれば、デジタル表示値とダイヤル読み取り値が一致しない場合に誤カウントと判断して発振レベルを調整することができます。
カウンタは、ディップメーターの本質ではなく、いわば道具の部分なのでキットを購入します。貴田電子設計の150MHzのカウンタを使います。
またせっかくカウンタを内蔵させたので、周波数カウンタとして利用できるよう外部入力端子を設けます。
さらに、ディップメータの発振出力は外部出力し、SG(シグナルジェネレータ)としても使えるようにします。SGとして使いやすくするために出力にはALC回路をつけ、出力レベルがほぼ一定になるようにする予定です(この部分は未製作)。
本来は陸軍端子(赤と黒の端子)ではなくBNCコネクタ等を使うべきですが、そこはアマチュアのちょい使い用、BNC接続では気軽に利用できないのでこうしました。
なお、陸軍端子を四隅に配置したのは、ディップメータが立つようにするためです。
回路
ディップメータの回路は概ね決まっています。昔はグリッドディップメータと言われたように真空管を使用した回路でしたが、現在は真空管をFETに置き換えたものが普通です。
JA6HICさん、JA2DJNさん、JO7VJQさん、の製作記事などを参考にさせていただき、コアとなる発振回路の部分はJA6HICさん,JA2DJNさんのサイトに掲載されていたものを基本に定数などは調整して使わせていただきました。
DIP-METER1.1.jpg
発振回路以外の部分について簡単に説明します。
Q3は、周波数カウンタへのバッファです。周波数カウンタは使わないこともあるので、周波数カウンタの有無で発振周波数に影響を与えないようバッファを入れています。ソースフォロワ構成としていますが、R4とC11はソース接地の増幅器とどちらがよいか比較した名残です。
Q4は、SGとしての外部出力用のソースフォロワ。ここは未評価です。
電源は、ACとバッテリの2電源方式です。家屋内で使用するときはACアダプタ(9V)、アンテナ調整など屋外で使用するときは006P(9V)の想定です。バッテリの持ちが気になるときのためにBATT ECOモードというものを設け、この時には周波数カウンタには電源を供給しません。因みにAC-ADPは、実際には8.5Vしか出力がなく、3端子レギュレータ(Q2)のドロップが約2Vなのでほとんどマージンがありませんが、3端子の出力は6V出ています。
部品
ネック部品(入手しにくい部品)が2つあります。バリコンとラジケータです。
-バリコン
バリコンは約40年前に製作した5球スーパー用のものが残っていたのでこれを用いました。430pF×2の2連バリコンです。
この手のエアバリコン(電極間の絶縁体が空気であるバリコン)が入手できないときはポリバリコン(電極間の絶縁体がポリエチレンフィルムであるバリコン)を使うことになりますが、同一容量の2連バリコンの入手が難しい場合には単連バリコンもしくは2連バリコンの片側だけを使い、回路構成も変更する必要があります。ネット上で検索すると、以前スワンテック社が販売されていたディップメーターキットの単連バリコン使用の回路図が見つかりました。
-ラジケータ
ラジケータは、秋葉原でも店によっては有無を尋ねても何のことかわからない所がありましたが、電流計の安いもの、目盛りが適当にデザイン的に振られており、精度も適当、といったイメージのものです。昔はジャンク品で100円程度で買えましたが、今では売っているところが非常に少なくなりました。
私も秋葉原で探しましたが、小さいもの(新品で650円)しか見つからず、やむなく40年前購入の小さいもので作りましたが、ほぼ完成段階でラジオセンター2階の菊地無線電機さんで比較的大きな、ディップメーターにはピッタリサイズのものを見つけこれに取り替えました。新品で1050円でした。
これ以外には入手しにくいものはないでしょう。
-ダイオード
昔と変わったところとしては、点接触型ゲルマニウムダイオード1N60やSD46、SD34の代わりに、ショットキーバリアダイオード1SS108を使ったくらいです。1N60は現在でも相当品が販売されているようですが、Vf(順方向電圧降下)が0.1V程度のものであればよいわけなので、ショットキーを採用しました。
- コンデンサ
ひとつ注意しなければいけない部品は発振回路に使われているセラミックコンデンサです。回路図中、C1、C2、C12、C13は、発振周波数が周囲温度が変化してもできるだけ変化しないようにするため、温度変化による容量変化ができるだけ少ないものを使う必要があります。温度による容量変化が±60ppm以内のCH特性のものを使用しました。CH特性のコンデンサは頭に黒マークが付されていました。この他のコンデンサは特に気にする必要はありませんが、温度により容量が大きく変化するZ特性やF特性ではなく、±10%以内のB特性のものを使用しました。
実装
実装状態は写真をご覧ください。
ディップメーター部分は片面紙エポのユニバーサル基板で組みました。
しかし、発振周波数が上がらずに苦労したので、最初から知っていればここは両面ガラエポのメッシュグランドのユニバーサル基板を使ったでしょう。
写真向こう側、ディップメーター基板、バリコン、コイルはできるだけ近くになるよう配置します。この三者を結ぶ配線は当初その他の部分と同じくAWG#24のより線を使っていましたが、発振周波数向上対策で、銅箔による配線に変えました。できるだけ表皮効果(高周波になるほど、電流が導体の表面近くしか流れなくなる現象)の影響を減らし、配線のインダクタンスを抑えるためです。
中ほどのICが載っている基板は周波数カウンタの基板、一番手前側には9Vの乾電池を搭載しています。
コイルの製作
コイルの材料は、φ15mmのアクリルパイプ、RCAプラグ、φ0.65mmUEW線、φ0.29mmUEW線、保護用の熱収縮チューブφ20mm(無色透明のスミチューブ)です。コイルの製作手順を手書きメモで紹介します。
最初は、ディップメータ回路の発振確認用に5回ほど巻いたもの(5Tと呼ぶ)を作りました。発振が確認できれば、最も高い周波数のコイルをまず作ります。1Tのものとヘアピン状のものを作りましたが、似たようなものでした。安定に発振する限界で135MHzくらいの周波数になっています。このコイル(コイルAと呼ぶ)は135MHz~37MHzをカバーしていますので、次は高い方が37MHzよりいくらか上の周波数となるようなコイルを作ります。コイルBは55MHz~19MHzとなっています。重なりはある程度大きい方が使いやすいと思います、巻いたものが、50MHzのハムバンドもカバーしているのでちょうどよいとしています。コイルCは22MHz~8MHz、コイルDは10.5MHz~3.7MHz弱、コイルEは3.7MHz強~1.3MHzとなっています。
コイルNo. 巻き数 巻き線種類 ボビン直径 周波数範囲(MHz)
- A ヘアピン φ0.65mmUEW線 - 37-135
- B 5T φ0.65mmUEW線 φ15mm 19-56
- C 16T φ0.65mmUEW線 φ15mm 7.8-22
- D 51T φ0.65mmUEW線 φ15mm 3.7弱-10
- E 約145T φ0.29mmUEW線 φ15mm 1.3-3.7強
コイルのインダクタンスは理論的に計算できるはずですが、私の場合はJA2DJNさんの製作記事を参考に適当にカットアンドトライでやりました。同じ巻き数でも線径が細い方がインダクタンスが大きくなるなどやっているうちに色んなことがわかってきます。
また、コイルは巻き数が固まったら巻き線がずれないように熱収縮チューブを被せて保護します。熱収縮チューブは家庭用のヘアドライヤではほとんど収縮しません。100円ライターでやった人がいたので、私はプライヤでRCAプラグの先をくわえてガスレンジの上方30cmくらいのところで焙って収縮させました。火がついたりとけたり、また火傷しないように注意が必要です。あくまで自己責任です。本式には工業用ホットガンという、ヘアドライヤの強力版のようなもので収縮させるそうです。
外観デザイン
外観デザインは、当初からダイヤル目盛り板は手書きではなく、DVD/CDラベル印刷ソフトを使って、DVDディスクに印字しよう、と考えていました。
その他の表示はテプラ印字と思っていたのですが、途中でその他表示もプリンタで印字したくなりましたが、アルミケースに普通のPC用プリンタでは印刷できないため、紙に印刷しアクリル板ではさみこむ、という方法を思いつき、採用しました。
ダイヤル目盛板の作り方
- ダイヤルの目盛りを振る(キャリブレーションをする)のは周波数カウンタを内蔵しているので簡単です。
厚紙で作った仮目盛り板(コイルAからEようの同心円を5個コンパスで書いておく)をバリコンのつまみにつけ、カウンタで読んだ値をサインペンで記入してゆきます。発振強度により、周波数は若干ずれるので注意が必要です。
私は発振強度がおよそレベルメータの0点になるようなところでキャリブレーションをしました。発振強度が弱くて0点まで来ない場合は最大値でやりました。
- 仮目盛り板をつまみから外して、スキャナ(マルチファンクションプリンタのスキャナ機能)でパソコンに取り込みます。私が使ったのは。キャノンのMP640です。
- これをMS-WORDの文書ファイルに貼り付けます。
- 仮目盛り板の同心円をWORDの作図機能でなぞります。同心円とするためには左右センターあわせ、上下センターあわせの機能を使います。WORD2007では以下の手順です。
- 挿入-図形で適当に円(楕円)を描く。
- 図形を右クリックして、オートシェープの書式設定-サイズ、で円の大きさをmm単位で指定する。
- レイアウト-詳細設定、で水平方向、垂直方向を中央揃えにする。
(これがポイントです。これを行わないと、円の中心円が微妙にずれてうまくゆきません。) - これを繰り返して希望の大きさの同心円を描く。
- 周波数目盛りを打ってゆきます。いわゆる普通の目盛り線は角度をひとつずつ変えるのが面倒なので黒丸(または赤丸)で代用しました。
- 周波数の値をサインペンの値の上から打ちこんでゆきます。WORDはPower Pointのように文字の回転機能はないので、ワードアート機能を使って書きます。ワードアートはデザイン的は装飾文字ですが、読みやすいようにできるだけシンプルなものを選びます。ワードアートは文字の角度を指定できるので、ひとつずつ、円弧にそって、角度を調整してゆきます。
- ここまでできたら、パソコンの画面コピー機能で画面コピーし、ペイントの画面に貼り付け、これをJPEGファイルに保存します。
- キャノンMP640添付のDVD/CDラベル印刷ソフトを立ち上げ、このJPEGファイルを取り込みます。もともと実物大にできているので、ほぼ無調整でできました。
- データを書き損ねたDVDなどに(もちろん新品でもOK)、印刷すればできあがり。DVDはつまみの裏に強力両面テープで貼り付けています。
苦労したこと
周波数範囲が、メーカー製、各種製作記事ともに、最高200MHz強となっていることが多いようですが、せいぜい140MHz前後までしか出ませんでした。なぜ私のだけが出ないのかと悩み、色々なことを試してみました。
- バリコンの最小容量が十分に小さくないので高周波が出ないのかもしれない。
→バリコンにシリーズに20pFのコンデンサを入れ、最小容量をより小さくする。・・・この場合、バリコンを最も抜いたところで発振が不安定になる。 - 基板、バリコン、コイル間の配線はAWG24の撚り線を使用していたが、表皮効果の影響で高周波では抵抗が高いかもしれない。
→幅5mm~10mm程度の銅箔(30μ厚)で配線する。・・・10%程度の効果があった。
- 発振用FETの電源電圧が低いのではないか。
→6Vから9Vに上げてみる。・・・効果なし
また、バリコンの容量が最大430pFと大きく、従って容量の可変範囲が広すぎるため、発振が不安定になりやすい。
- バリコンにシリーズに1000pFのコンデンサを入れることにより、見掛け上300pFのバリコンとした。・・・発振が安定し、1本のコイルでカバーする周波数範囲が適切な範囲に狭まったので周波数を合わせやすくなった。
小さく切った片面プリント基板をバリコンの端子に直に半田付けして、ここに1000pFのコンデンサ(積層セラミック、CH特性品)を付けました。拡大してみると半田付けが下手ですね^^;
色々試しましたが、結局周波数は135MHz程度が最高周波数となりました。
使ったバリコンが中短波用(40年前の中波用5球スーパーに使われていたもの)のため、ストレーキャパシティが大きいなどの問題があり、やはりVHF帯に使うのは無理があるのではないかと結論付けています。実際私が使うのは50MHz程度までなので、悔しさは残るものの実用上問題ありません。
また、150MHz以上出ても、今度は周波数カウンタが150MHzまでしかカウントできないのでデジタル表示ができず、キャリブレーションをどうしようという問題もあったのですが、これについては、アナログTVのVHF Hiバンドの周波数が、170~222MHzを連続的にカバーしており、テレビに近付けてどのチャネルの画像にノイズが入るかで、およその周波数(1チャネルの帯域幅が6MHzなので、その精度で)を知ることができると考えていました。VHF Lowバンドの3チャネル(関東ではNHK教育テレビ)が102~108MHzなので105MHz辺りで画像が乱れることまでは確認していました。2011年7月24日の地上デジタル放送への切り換えでアナログテレビは停波しましたが、アナログテレビ受像機自体はUHFバンド(300-770MHzが受信可能)も含めてこのような用途で測定器として使えるので一台は捨てずに取っておこうと考えています。もちろん、デジタル周波数表示のついたUHFまで受信できるオールウェーブの受信機をお持ちの方には必要ありませんが、使えるものは安全上・その他の問題がない限り目的外でも使う、というのが工夫のしどころです。
使用感
40年前に自作した50MHzSSBトランシーバの同調回路を測定してみました。
送信終段真空管式のタンク回路(同調回路)、はっきりディップします。
トランジスタ式の受信回路、36MHz第二局発の同調回路、なんかずいぶん
ずれているような、、、それにディップも微妙です。
→回路に実装された状態の同調回路では、装置の電源OFF状態では周辺回路の影響で正しく測定できない様子。電源ONで測るとばっちり36MHzでディップしました。真空管式の回路では電源OFFでも周辺回路のインピーダンスが高いため正しく測れていると考えられます。
また、ディップがはっきりしないとついついディップメータのコイルと被測定対象を近付けたくなりますが、できるだけ離して疎結合で測るのが正確に測るコツです。密結合で測るとダイヤルも回してもメータがディップした状態のままひきずられるような現象が起き、測定が不正確になります。
(2011/8/1)
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ディップメータ2につづきがあります。
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