製作記事

スイス登山鉄道Nゲージ・ジオラマ

スイス登山鉄道Nゲージ・ジオラマ

 

 これは、2017年10月にスイス旅行をした際、ユングフラウ鉄道の走る景色が、まるでNゲージ・ジオラマのようだ、と思ったその記憶をジオラマにしたものだ。(ヨーロッパ鉄道旅行を参照。)

 実際のユングフラウ鉄道は、標高2,061mのクライネシャイデック駅から、標高3,454mのユングフラウヨッホ駅まで、最大勾配なんと250‰(パーミル)、つまり1,000mの水平距離を走る間に250mの高さを上がる急勾配の登山鉄道だ。アイガー、メンヒ、ユングフラウという4,000m級の山々の山腹をくり抜いて作られ、難工事の末、1912年8月1日(大正元年)に完成している。

 本ジオラマでは、本線で最大勾配100‰、回送線で133‰を実現した。実物と異なり、ラックレールではないのでこの辺りが限界である。まずは各所のスナップをご覧いただきたい。

 

各所のスナップ写真

 クライネシャイデック駅。

 

 クライネシャイデック駅とファストフードコーナー、アイスクリームスタンド。

 

 クライネシャイデック駅のWAB鉄道(ヴェンゲンアルプ鉄道)ホームの行き先方面表示板。

 

 100‰(100パーミル=10%)の急坂をアイガーグレッチャー駅に向けて登る。

 

 稜線の向こうにヴェッターホルンが見える。

 

 アイガーグレッチャー駅を谷側から見る。ハイキングコースのアイガートレイルはここからスタート。駅のレストランにはテラス席もある。

 

 アイガーグレッチャー駅を山側から見る。

 

 アイガーグレッチャー駅に立つ黄色のハイキングコース案内板。これは実物の写真をそのまま縮小して作ったものだ。岩壁面の「Eigergletscher 2320m, 7,612ft.」という駅名、標高表示板は、ジオラマの解説板としてつけたもので実際にはここにはなく、駅舎の線路側にもっと小さなものが掲げられている。

 

  アイガーグレッチャー駅を出てすぐに、アイガー、メンヒ、ユングフランの山体をくり抜いた長いトンネルに入る。終点のユングフラウヨッホ駅までずっとトンネルの中。右横には、アイガーグレッチャー(アイガー氷河)の末端部分を配した。実際に春、夏、秋のシーズンにはこの辺りでは氷河は見られないが、冬のスキーシーズンには、スキーガイドさんがリフトの上から、あの青く見えるところが氷河です、と教えてくれ、見ると雪の下にうっすらと青氷のようなものが見えた。この氷河は、その記憶を再現したものだ。 

 

 山体の中を走る。もうすぐアイスメア駅だ。山体の中が見えるように、金網をとおして中が見えるように作った。

 

 終点、ユングフラウヨッホ駅に到着。

 

 実在しない回送線のトンネル出口。背景の雪山は、アイガーグレッチャー駅から少し降りたところで撮影したものを嵌め込んだ。

 

 回送線のループ線を下る。勾配133‰の逆落とし。

 

 回送線のループ線背後には、乳白色に濁った氷河の雪解け水が流れる。

 

 回送線からクライネシャイデック駅に戻って来た。

 

 クライネシャイデック駅から、西方向を見たところ。実際には電車の格納庫というか電車基地があるのだが、スペースがないのと回送線を設けたことで省略した。

 

 折り返して、回送線のループ線を駆け上る。133‰はある程度スピードをつけないと苦しい。フライホイール付きのED75はゆっくりでも上れる。

 

 アイスメア駅を岩山を取り外して谷側から撮影したもの。左側のプラ板は、電飾用白色LEDの直列抵抗を取り付けた基板のカバー。

 

 アイスメア駅を山側から撮影したもの。実際のアイスメア駅は、このように透明の駅舎があるわけではなく、岩盤をくり抜いた空間にトイレとそっけない展望窓があるだけなのだが、凍り付くような寒い感じを100円ショップのプラスチックボックスと白色LEDで表現した。

 

 ユングフラウヨッホ駅。実際には、線路は3本だが、ジオラマでは2本で、うち1本は回送線につなげている。内部の様子は雰囲気だけを再現したつもりだが、実際とは違うところはたくさんある。

 

 駅の奥、左側の壁の拡大写真。向かって右側から、茶色の看板は、ウエルカム表示板で、日本語の「ようこそ」は下から4番目に表示されている。次の紺色ボックス2つは、電車の発車時刻表示スクリーンとハイキング/スキーのコース案内スクリーンである。これは、この駅で撮影したものではないが、同様のものがこの辺りにあったはずだ。次は、ユングフラウ鉄道の開通のための工事を開始したアドルフ・グイヤー・ツェラー氏の銅像だ。左端は、ユングフラウヨッホ トップオブ・ヨーロッパ周遊に出るための通路だ。

 

 ユングフラウヨッホ駅の全景撮影のため岩山を取り外したところ。左側の壁がなくなっているので、山の下の方が見えてしまっている。

 

 取り外し式の岩山。

    ユングフラウヨッホからクライネシャイデック方面を見たときに、駅の向こうに運転台が見えるのは興ざめなので、駅と運転台の間に前景=ラウバーホルン&チュッゲンの山の写真を配した。

 

動画(走行車両先頭カメラ)

 走行車両先頭から撮影した動画をご覧いただきたい。

1)クライネシャイデック駅→アイガーグレッチャー駅

 

2)アイガーグレッチャー駅→アイスメア駅→ユングフラウヨッホ駅

 

3)ユングフラウヨッホ駅→アイスメア駅(通過)→アイガーグレッチャー駅

 

4)アイガーグレッチャー駅→クライネシャイデック駅

 

5)ユングフラウヨッホ駅→回送線→クライネシャイデック駅

 

6)クライネシャイデック駅→回送線→ユングフラウヨッホ駅

 

動画(俯瞰カメラ)

 次に、斜め上方から俯瞰した動画をご覧いただきたい。

1)クライネシャイデック駅→ユングフラウヨッホ駅

 

2)クライネシャイデック駅→回送線→ユングフラウヨッホ駅

 

3)クライネシャイデック駅→回送線→ユングフラウヨッホ駅 夜

 

4)ユングフラウヨッホ駅→クライネシャイデック駅 夜

 

 

 以降、どのように作ったを述べる。因みに、私は鉄道模型に関しては子供が小さいころに父が孫のために大量に購入したNゲージを、実家に帰ったときに子供のために部屋いっぱいに広げてレイアウトする、という程度でジオラマに挑戦したのは今回が初めてだ。

設計イメージ

 記憶のなかのスイス・ユングフラウ鉄道を再現したい。

登山鉄道なので、ジオラマとしてもできるだけ高低差をつける。

・実際のユングフラウ鉄道は、半分以上がトンネルの中で、終点のユングフラウヨッホ駅も岩盤をくり抜いて作られているが、トンネルの中が見えないのではつまらないので山の中が透けて見えるようにする。

・実際は単線の往復運転で途中のアイガーグレッチャー駅ですれ違いだが、実在しない回送線を作ることで循環運転を可能とする。

勾配試験

 Nゲージでは、最大勾配4%(=40‰)とされているようだ。だが、長大編成の列車を走らせるわけではないので、条件を限定してどこまで可能か実験した。

条件:走行させる車両は以下の2種

1) TOMIX 箱根登山鉄道2000形サン・モリッツ号 2両編成(品番98006)

 できるだけコンパクトなレイアウトとするため、TOMIXのミニカーブレールを使う計画で、これを走行可能な登山電車風のものを選んだ。

2) 動画撮影用のウェアラブルカメラを搭載した貨車と電気機関車 2両編成

 ウェアラブルカメラはPanasonicのHX-A1Hで、もともとスキー滑走時の動画撮影用に購入したものだが、使い勝手が悪いためお蔵入りしていたものを再活用した。電気機関車は、ミニカーブレールを走行可能なTOMIX ED75(品番9163)。貨車はTOMIX コキ50000(品番2742)をミニカーブレール走行可能なように長さを短く改造したもの。

 

実験結果

 実験の結果、ED75単機がもっとも強力で227‰までOK、ED75+カメラでは175‰までOKだが、箱根登山鉄道は確実に走行できるのは140‰までだった。そこで、ジオラマ上では、余裕をみて本線(実際のユングフラウ鉄道を模した部分)では最大100‰、回送線では最大133‰とした。

 因みに、確実に走行できる勾配を超えて急勾配にして行くと、箱根登山鉄道では、空転しながら登る→登れずずり落ちる、となり、ED75単機またはED75+カメラでは、登れるが停止時にずり落ちる→登れずずり落ちる、となる。

レイアウト設計

使えるレールの確認

 TOMIXのミニカーブレール、スーパーミニカーブレールをいくつか買い求めテストコースをいくつか作ってみた。できるだけコンパクトなレイアウトとするためにはスーパーミニカーブレールのC103(曲率半径103mm)が使えるとよいが、箱根登山鉄道2000形もED75もミニカーブレールまでしか対応していない。そこで本当にスーパーミニカーブレールは走れないのか平地で実験した。

  C103同じ曲がり方向接続

C103 S字接続

ED75単機

ED75+カメラ △(時々脱線) ×(カメラ脱線)
箱根登山鉄道

 C103主体の使い方はだめである。S字の真ん中にストレートのS70をはさんでもだめ。原因は、ED75のカプラーが車体固定のため、カーブでカプラーが外側に大きくふくらんでカメラ搭載のコキ50000改を斜めに押す力が働くため脱線する。

 C103が使えないとレイアウトサイズが大きくなるため、一部だけでも使えないかさらに実験した。

  ストレート+C103

C140+C103+C140

(同じ曲がり方向)

C103+C140 S字接続

(逆の曲がり方向)

ED75+カメラ △(時々脱線) ×(脱線)

 C103の両側をミニカーブレールC140を使って同じ曲がり方向で囲んだ場合のみOKである。これは、緩和曲線でもあり、レイアウトのコンパクト化に役立つので良い結果だ。C103とC140のS字がだめなのは、ストレート+C103でもだめなので当然である。

 以上により、使えるレールとその組み合わせがわかったのでレイアウトにとりかかる。レイアウトボードは、既製品でTOMIXの600mm×900mmの品番8021を2枚、900mmの辺で接続して1200mm×900mmとして使うことにする。

レイアウトツール

 小さいながら本格的なジオラマなので、カット&トライはできないと考え、まじめに図面を書くことにする。ネットで調べるとSCARMというNゲージレイアウトソフトがよさそうなのでこれを採用。一定規模のレイアウトまでは無料で使える。下図に今回のレイアウトの一部を示す。レールとレールの接続部に高さが表示されるのがよい。他のレイアウトツールは使ったことがないので他のツールでも表示されるのかは知らないが、この高さを任意に設定できるのが今回のような登山鉄道ジオラマの製作にはとてもよい。というかこの機能がないとかなり設計が面倒だろう。区間の勾配が4%を超えると、数値が色表示になったりする。

 

 

勾配設計

 勾配を本線最大100‰、回送線最大133‰と設定した。水平面から最大勾配までの変化をできるだけ緩やかにする必要がある。水平から突然100‰では、接続部で引っかかって動かなくなることは容易に想像できるからだ。そこでまず、簡単な実験を行った。

 段ボール紙を使って、勾配が0、25、50、100、133‰と徐々に変化する実験線路を作った。すると0と25の継ぎ目で止まった。すきまが開いていたのでぴったり嵌めなおしてOK。また133‰でずり落ち気味で激しく空転して登る有り様だった。これは確認したところ、いい加減なつくりのため勾配が不正確だった。

 以前の勾配試験路は父遺産の30年ほど前の茶色のレールだったので、新しく買ったファイントラックのレール(灰色)で同じ勾配試験路を作って確認したが箱根登山鉄道で153‰までOKだった。163‰では空転しながら登り、静止時にずり落ちた。昔の茶色レールをもう一度試すとほぼ同様だが空転がやや激しかった。この実験ではファイントラックのほうがややグリップがよかったが、サンプルは1例ずつなので有意差とは言えないだろう。レールの継ぎ目はよく見ると下写真のように角度がついており、これが大きいと亀がお腹をこすって足がつかないような状態になるので、この角度をなるべく小さくするようにレイアウト設計することにする。

 表計算ソフト(Excel)で、下表に抜粋したように、勾配を緩やかに変化するように設定し、高さH(mm)と累計高さを算出する。この累計高さを”SCARM”の接続部高さとして入力する。この値がおかしいと、数字が赤色になったり、また最後に3D俯瞰図を出力したときに断層のように異常な地形として表示される。本表は、最下行から見るとわかりやすい。勾配が、0、8、25、50、54、75、100‰と徐々に急勾配になってゆく様子がわかるだろう。

 

地点 レール名 L(mm) JF-KS駅間L累計(mm) 勾配(‰) H(mm) H累計(mm)
  C140-60 147 1233 100 14.7 68.6
  C103-60 108 1086 100 10.8 53.9
  C140-60 147 978 75 11.0 43.2
  S99 99 832 54 5.3 32.2
S字カーブ C140-60 147 733 50 7.3 26.8
トンネル S字カーブ C140-60 147 586 50 7.3 19.5
トンネル C140-60 147 440 50 7.3 12.2
  C140-60 147 293 25 3.7 4.8
Kleine Scheidegg駅出口 C140-60 147 147 8 1.2 1.2
  PR140-30 70 0 0 0.0 0

 

 Lは各レールの端部から端部までの実走行長である。勾配(‰)とは、垂直距離/水平距離であって、垂直距離/実走行距離ではないので、Lに勾配を掛け算してHを出すのは正しくないが、簡単のためにこうしている。勾配が100‰や133‰程度ではほとんど影響がない。下表で勾配100‰と言っているのは、正確には100.5‰である。

 SCARMで表示される勾配(%)とこのExcel表の計算結果はほぼ一致しているのでSCARMも同じ計算方法になっているのかもしれない。というか誤差の範囲でわからないのかもしれない。

 レイアウト図を平面図として表示する際に勾配が急になると同じ長さのレールなら本来平面図として長さは短く見えるはずだがそうはなっていないようなので、勾配の計算も同じかもしれないと思うわけだが、間違っているかもしれない。

 設計完了すると3D図が出力できる。

 

 この上にパワーポイント上でイラストを描き加え、イメージを膨らます。

 ユングフラウヨッホ駅(Jungfraujoch駅)のベース面からの高さは約30cmと記載されているが、最終的には269.3mmとなった。これは、回送線(図、右上のループ状に降りてくる線路)の線路長が十分に取れず、勾配を最大133‰で抑えるために、本線の到達高度を抑えざるをえなかったためだ。岩山に入る前の部分は目立つため基本勾配を100‰にしたが、岩山に入ったあとは勾配を早めに75、50、25‰とゆっくり落として、高さを抑えた。

 

製作

 ジオラマの山は、発泡スチロールで作る方法が多く紹介されているが、発泡スチロールを切ったり、整形したりするのは大変でうまくできなさそうであるし、発泡スチロールの切り屑が静電気で手や衣服にまとわりつく不愉快さが想像され、この方法は避けたかった。また、本ジオラマは線路の高度を正確に出さないといけないので、この点でも発泡スチロールは不向きである。レールとレールの接続部の高さは0.1mm単位で計算してあるため、すべての高さを角材で出すことにした。気持ちは0.1mmだが素人が鋸で切るのでせいぜい1mm程度の工作精度ではあるが。

 そして線路の路盤をベニヤ板で作り、周囲の山肌は金網を貼った上に、KATOのプラスタークロスを貼る計画とし、この工法でうまくいくかを確認するため、まずは部分試作を行う。

部分試作

1. SCARMからレイアウト図を部分的に実物大でプリントアウトしたものを、ベニヤ板(2.5mm厚)に写し取る。17cmのプラ定規に穴を開けて、コンパスとして使った。

 

2. 写し取ったら、このような曲線切り用のノコギリでベニヤ板を切る。面白いようにザクザク切れる。

 

3. 高さを出すための角材(30mm×24mm)を切る。

 本来、上面はその場所の勾配に応じて斜めに切るのがベストだが、私の腕では50‰とか75‰という精度では切れないので水平に切る。斜めに切ると、底面の水平を出すために再度切らないといけないので面倒ということもある。水平に切ること自体が難しく、電動丸鋸をこの際買おうかと思ったが、しまう場所がないので思いとどまり、写真のような治具を購入した。

 コの字型のアルミ材にノコギリが入るガイドの切れ込みがあるのだが、もう少し深さがあるとよかった。また、この治具と角材の太さは同じではないので、詰め物をして切ったが、なかなかこれを使っても角材を直角に切るのは難しかった。

 

 

 

4. 仮組みしてみる。

5. 金網を挟みこみ、タッカーで固定する。

 タッカーは、写真下方の青い道具で、ホッチキスのような弾を強力なバネ仕掛けで打ち込むことができる。ホームセンターのおじさんが教えてくれた。おじさんと言っても私より年下と思われるが。

 横から見ると、角材上面が水平のため、路盤のベニヤを角材にタッカーで固定したところが、本来の設定した勾配とは異なり、水平気味になっている。線路はその分、前後で浮き気味になるが、許容範囲とする。

 角材はレイアウトボード(ここでは部分試作のために仮のベニヤ板)裏面から耐火野地板ビス(太さ4.2×長さ20mm)というものがネジ頭が大きくて長い角材でも安定しそうなので、これを用いて固定した。

 

 この部分試作線で走らせてみるとS字カーブのところで引っかかることがわかった。調整するとよくなったが、S字の前後で逆カントとなるので、S字の前後では、勾配を変えないように、かつ、勾配が緩やかになるよう設計変更した。

本組み

1.  “SCARM”から、実物大レイアウト図をプリントアウトし、レイアウトボード(2枚接続して横900mm×縦1200mm)上に貼り付ける。

 

2. レールを並べて、設計通りにつながるかを確認する。

 確認後、レールを撤去し、レイアウト上のすべての接続点をレイアウトボード上にキリを使ってマーキングする。

 

3. レイアウトをレール路盤にするベニヤ板(2.5mm厚)に写し取り、曲線ノコギリで切り抜く。レール間接続点には高さを記す。

 

4. 高さを出すための角材を切る。

 

5. 角材をレイアウトボード上に裏からビスで固定する。

 

6. 路盤を載せてみる。

 路盤は水平ではなく設計した勾配を持つため、角材上に載せたとき、上から見てレイアウトボード上の平面図とは厳密には一致しないが、実際には角度が浅いため誤差の範囲となる。

 

7. 地表を表現する金網を角材と路盤ベニヤ板との間に挟み込んで、タッカーで固定する。

 

8. レールを敷いて、試走確認する。ほぼ一発で問題なく走行した。写真はED75+カメラだが、箱根登山鉄道でもOK。

9. KATOのNゲージプラスタークロス(大)を水に浸して金網に貼り付ける。あまり作業性はよくないが、乾くとそれらしくなる。幅200mm×4.5m巻きのものを2本弱使った。金網の凹凸が目立つところなどは石膏粉を水で溶いて、上塗りした。

 

 左側のトンネルは、2つとも脱線時に備えて開閉可能とした。金網の目の方向を考慮することにより、金網自体が蝶番のように可動する。

 なお、右側板沿いのトンネルは、右側板にメンテナンス用の開口部を設けているので、トンネル自体は開閉しない。

10. 路盤をバラストの色に合わせて塗装する。

 ジオラマ最上部の岩山は目玉クリップで止めているところを持ち上げると、全体が取り外し可能である。

 

11. 山肌を土色に塗る。湖は湖らしく塗る。谷川は、実際の川床の色に合わせたが、後でやはり川の記憶色は水色ということで、水色に塗りなおした。

12. 草を植える。

 草の植え方はネットで調べると、電気ハエたたき器を改造した、静電気を用いて1本1本の草を立てる植え方が出てきたので、私もそれを採用しようかと一時本気で考えたが、平地に生える草がまっすぐ上向きに立つのはよいが、崖に生える草が、斜面に対して垂直に生えるのは不自然と考え、ふつうに茶こしをふるいながら草を植える方式に落ち着いた。

 地面に水溶き木工ボンドを塗った上から茶こしで草を散らすのだが、このやり方では崖のような垂直に近い斜面にはほとんどつかないので、そういう場合には写真のようにジオラマ自体を立てて作業した。

 この写真では、既に駅のプラットフォームも取り付けられている。ヨーロッパの鉄道では、登山鉄道に限らず一般に日本のような高さのプラットフォームはなく、線路面と同じくらいの高さの場合が多い。よって、線路の路盤に5.5mm厚のベニヤを貼り付けている。

 草植え完了。岩山は取り外しやすいように取っ手を付けた。

 

13. 水と雪を表現する。

 雪は、TAMIYAの情景テクスチャーペイント”粉雪ホワイト”を使用。これはざらざら、ねっとりした触感で塗るのが難しい。ジオラマ頂上の雪山は、プラスタークロス+石膏のままでもよかったと思う。岩壁は地層に沿って雪が少し載っているのを表したかったが、うまくできず、拙い感じになってしまった。また、てっぺんを塗っているうちに雪庇のようなものができたので、それは雪庇として使うことにして、雪庇をいくつか作った。

 

 

 水を表現する商品は多くの種類が販売されているが、KATOの ウォーターシステムシリーズ ”さざ波” というものを使用した。これ自体はほぼ無色透明なので、湖底、川床にそれらしい色を塗った後、シナリー用の砂や石を並べたうえで、ペットの給餌用シリンジ(先端の内径が4.5mm程度の注射器状の器具)を使って注入した。”さざ波”というネーミングだが、かなり粘度が高い。

 湖は、注入した直後は写真のようにさざ波っぽくなっていたが、最終的にはほとんど平らになってしまった。しかし、水平になったかというとそういうわけでもなく、かなりでこぼこがある。

 

 谷川は大岩、小岩をたくさん配置したので、それが抵抗になったのか”さざ波”はだらけず急流の感じがわりと出ている。

 

14. レールを敷き、配線をする。

 ここでは、上部の岩山のトンネルとトンネルの間に氷河を作っている。これはアイガーグレッチャー(アイガー氷河)のつもりだ。木工ボンドをクリアファイルの上に大量に流して、2,3日乾かしてから剥がして用いた。

 

情景製作

 駅舎は、パワーポイントで絵を描き、シール紙にプリントし、これをボール紙(学校教育工作用紙)に貼り付けたものを組み立てて作った。

 クライネシャイデック駅は、現地で自分で撮影した写真と、ネットで検索した画像をもとに作図したが、すべての方向からの画像があるわけではないので、ない部分は想像して作成。

 この駅は、Nゲージの縮尺で作るとこれよりだいぶ大きいが、駅舎用のスペースにとても入らないので、小さくした。しかし電車の屋根が、駅舎1階のひさしの高さと同じくらいなのでそうおかしくないと思うがどうだろう。

 次に中腹にあるアイガーグレッチャー駅。これは自前の写真が駅名表示板のところしかなく、ネットを検索したら線路側から撮影した画像が出てきた。線路の反対側から見るとどうなっているのかはわからないが、この駅舎のなかのレストランでランチを食べたことがあり、テラス席もあったと記憶しているのでそのように作った。

 実際にはこんなに断崖絶壁の上に建っているわけではないが、スペースの関係でこうなった。

 駅舎は水平に建っているので、勾配のあるプラットフォームに合わせて下の面は斜めになっている。

 

 アイスメア駅は、アイガーの山腹を穿って作られたトンネルの途中にある駅で、岸壁に穿たれた窓から氷河が見られるようになっており、トイレもある。寒々としたところなので、氷のイメージで100円ショップのプラボックスを加工して作り、白色LEDで電飾を施した。

 終点ユングフラウヨッホ駅は、ユングフラウヨッホの直下の岩を穿って作られているので、その雰囲気を再現した。スフィンクス展望台に上がるエレベータは駅のホームから見える場所にはないのだが、ジオラマでは、駅からコンコースに出て、しばらく歩いて反対側からエレベータに乗るとエレベータの箱の中からホームが見える、という設定で作った。ジオラマとしても暗い場所なので電飾を施している。

 このLEDはAmazonで20本1,250円のものだが、細いリード線が出ているだけで扱いずらい。電圧降下用の直列抵抗(LEDに添付されている)もつなげないといけないので、蛇の目プリント基板に抵抗を取り付け、そこからLED、電源ユニット側への配線を行うようにした。基板は4か所に配置した。基板は見栄えが悪いので、この後でスモークのプラ板でカバーを作った。

 

 

 背景に、左からアイガー、メンヒ、ユングフラウのユングフラウ三山のお土産ポスターを設置した。エレベータから垂直に上がったところにちょうどスフィンクス展望台がある、という位置関係にした。

 クライネシャイデック駅のプラットフォームは、ここまではベニヤにクリヤラッカーを塗ったナチュラルな状態だったのだが、全体が完成に近づいてくると未処理感が強くなり、石畳をシール紙に印刷して貼り付けた。アイガーグレッチャー駅も同様とした。ユングフラウヨッホ駅には石畳がないので、寒さに合わせて寒色の塗装を施した。

 

 左右の側板がベニヤ板のままでは風情がないので、自分で撮影した写真を引き伸ばして貼り付けた。左側は、ヴェッターホルンがアイガー北壁の横から顔を出している様子を再現した。右側は、ミューレン方面の山々の写真を貼り付けた。この写真の下のほうには、ミューレンの斜面のアーチ橋が連なった高架線を登っているアルメントフーベル鉄道が小さく写っていたので間違いない。この側板上では切り取られてしまったが。右側板上部のトンネル横の雪山は、アイガーグレッチャー駅から少し降りたところで撮影したもので、トンネル入り口とのつながりがよいので使っている。

 

 左側板上には特徴ある形のヴェッターホルンが顔を出している。箱根登山鉄道は、スイスのレーティッシュ鉄道と提携しており、私の箱根登山鉄道2000形はサン・モリッツ号アレグラ塗装だったのだが、ユングフラウ鉄道塗装に改造した。電車の形は多少違うが、側面に黄色いラインをつけJUNGFRAUBAHNと鉄道名を表示した。また室内照明ユニットも装着した。

 スイス風の建物は、本物は線路の外側に建っており、大きさも形も違うホテルや、土産物屋だったりするのだが、ここは、”アニテクチャー ご注文はうさぎですか?? ラビットハウス 1/150スケール ペーパークラフト”を購入し、妻に組み立ててもらったものを配置した。本写真では前後逆に置いてしまった。またトンネルのメンテナンス用扉がきちんとしまっていなかったが、製作途中ということでご勘弁を。

 

レールの固定

 ここまで、レールは仮置き状態だったのだが、バラストを撒く前に路盤に固定しなければならない。ジオラマを立てて保管するときに取れてしまっては困るということもある。固定は、レールに開いている穴を通して路盤のべニア板に釘打ちをすることで行う。釘は長さ18mm程度の短くて細いものを使った。

 これが鬼門だ。難しい。固定する以前はレール同士が互いにつながり、レールの剛性と接続の強さで、自然な力で全体のレイアウト、勾配を形成している。この状態では、先に走行試験をしたように特に問題なく走る。ところが釘で固定すると、特に釘を根元まで打ち付けると無理な力が加わり、勾配に歪が出る。133‰の設計勾配が連続するところで、釘打ちによって勾配の変動が出るということだ。部分的に140‰になるかもしれないし、線路が波打つことでレールと車輪の接触が悪くなることも生じる。また、左右方向に傾きが出ることもある。実際、釘打ちによって、スリップしたり、止まってしまって押さないと動かないということが起きた。急勾配の133‰のところで主に生じた。自然にカントがついているようなところでも、低速で走ると左右の車輪がレールを押す力が偏るためか、接触不良で止まってしまうことがある。よって、釘はやや浮かし気味に打ったりいったん打ったものを抜いて打ち直すなどの調整が必要だった。高さを出すための角材の上面がその地点の勾配に合わせて斜めに切られていないのが、歪の一因なので、次回同じ方式で作る際には斜めに切るようにしたい。

 

バラスト撒き

 先輩諸氏の動画やブログを拝見したところ、まずは余ったレールなどで練習してみることが大切、ということが述べられており、確かにそのとおりと思い、本物と同じ路盤を作り、地表だけは金網にプラスタークロスを貼るのは面倒なので、薄いボール紙で作ったもので実験した。目分量で木工ボンド1:水2の比率で木工ボンド水溶液を作り、食器用中性洗剤を界面活性剤として数滴加えた。バラストは、本格的に木工ボンド水溶液を滴下して固める前に、霧吹きして全体を湿らせた方が、木工ボンド水溶液の浸み込みがよい、ということも述べられていたが、ポイントの可動部に入り込んだり、レール表面に接着剤が付着して接触不良になることを恐れて霧吹きは行わなかった。初めてやったときは、スポイトで滴下すると液が表面張力で丸い水滴となり、バラストを巻き込みながら斜面を滑り落ちるので、これはだめだ、ということになった。ボンドと水の比率は厳密に計って調合したのではなかったので、濃い目にし、中性洗剤も数滴ではなく、タラタラと筋を引くくらいにいれて再チャレンジ。この方が浸み込みがよい。数時間経ってから、盤を立てて、作業台にどんどんと強めにたたくとバラバラと崩れ落ちた。やはり24時間乾燥させないとだめなことがわかった。

 本番は、バラストを盛る路盤のベニヤ板(3cm幅)から、バラストがこぼれ落ちるのを防止するために路盤の左右にせき止め板のようなものを仮設しないといけないのではないかと当初考えたが、やってみるとそれほででもなく、ボンド水溶液を滴下したときに場所によってかなり崩れ落ちるところはあったものの、そういうところはあとで補修することでなんとかなった。

 

 架線柱を立ててからバラスト撒きをなんとか終了。実際の架線柱は、水平面に対して垂直だが、TOMIXの架線柱はレールの敷設面に対して垂直となるため、架線柱の水平面からの角度はその地点の勾配によりまちまちとなる。見る角度によって、これはかなり気になる。今度作るときは架線柱は、TOMIXの架線柱のベース(レールの下に挟み込む形)に頼らず、水平面に対して垂直に立てるようにしよう。

 24時間以上乾燥させたのち、試運転をしたが、中腹のアイガーグレッチャー駅入り口(駅下側)のポイントで脱線。可動部にバラストもしくは接着剤が付着したらしく、動きが不完全。ストロークが狭く、レールの可動子がレールの固定部にぴったりと密着しないため、その間に車輪が入り込んで脱線する。可動部分にシリコンスプレーを噴霧したところ少し動きがよくなったが、まだだめで、ルーペで拡大すると、レール外側の可動部品が固めたバラストに干渉していることがわかり、バラストを突き崩して除去した。これでほぼよくなったが、完全ではないため、いずれ周囲のバラストをはがしてポイント交換をしなければならないかもしれない。大工事になりそうで気が重い。

 

情景製作2

 クライネシャイデック駅の屋外カフェの販売テント、飲食用のテーブル、イス、スタンド、アイスクリームスタンドなど細々としたものを製作した。これらは自分で撮った写真を元に、なるべく同じように作った。青緑色の販売テントや飲食用のスタンドはパワポで絵を描き、商品名をタイプして作った。アイスクリームスタンドは、写真をそのまま利用した。写真は斜めから取られているので、「ぴたり四角」というソフトで、平行四辺形にうつっているものを長方形に変形して形を整え、明度、彩度、コントラストなどを調整して見栄えを整えて展開図を作った。これらもシール紙にプリントし、厚紙に貼り付けて組み立てた。テントの布地の部分だけは厚紙に貼り付けるとおかしいので、シール紙のまま剥離紙を貼り付けずに傘の形にした。イスは、TOMIXの”柵 看板セット(品番3021)”の柵を切り貼りして作った。また、1/150スケールの人物を各所に配置した。

 

 

 ここまでできてくると、細部も作ろうという気持ちになり、クライネシャイデック駅プラットフォーム上にあるトイレを作った。ここはグリンデルワルドからWAB鉄道で上がって来て、ユングフラウ鉄道に乗り換える際にも利用したし、スキーのために来た時は、スキー開始前に利用する重要な施設である。スペースの関係で本物よりは小さなトイレになっている。壁面の掲示されている広告は、何の写真かわからないが、現物の写真を縮小して貼り付けている。

 行き先や番線表示は、現物と同様のものを製作した。ただし、1/150縮尺で作るとほとんど字が読みにくくなるので、やや大きめに作ってある(グレーの柱につけた青地に白文字の表示板)。

最終確認

 全部できたので、最終的な走行試験を行った。ED75+カメラは問題なし。フライホイール装着車なので部分的に接触が悪いところがあったとしても慣性力で通過することができる。箱根登山鉄道あらためユングフラウ鉄道は、フライホイールなしのため、急坂のところどころで息をついたり止まったりする。レールクリーナーで全面クリーニングし、布で乾拭きもし、息つきや停止はなくなったが、今度は133‰の回送線右端のトンネルの中でスリップする。取り出して、100‰の坂で試そうとすると、やはりものすごい勢いでスリップ(空転)し、ゴムの輪が吹っ飛んだ。なんと車輪に嵌めてあるゴムリングが外れたのだ。これなら原因がはっきりしてよい。度重なる急坂での走行によりゴムが劣化したと見られる。

 車輪ゴムを発注し、交換したところ、スリップは直った。よかった。車輪ゴムの交換は方法がわからず悩んだ。ネットで検索すると、TOMIXのサイトには、台車は「とうもろこしをもぎとるようにして外します」と書かれているが、とうもろこしをもぎとったことはなくイメージがわかない。箱根登山鉄道が動かなくなり、バラバラに分解したことはあるので、そこまでやれば外せることはわかっていたが、分解組立ては相当面倒なのでやりたくなく、なんとか台車だけを外したかった。結果、台車は少し回転した状態で台車を両側から押えながら捻り取るような感じで取った。もぎとる、といってもいいかもしれない。これをご覧の方は、台車の取り外しなどは日常茶飯事でなにをいまさらと思われるであろうから詳細は省略する。

 ED75で推すカメラ車による撮影も試してみた。カメラの視点で見ると、いくつか不具合が見つかった。回送線のループ線上のトンネルは、右側板にメンテナンス用の開口部があるが、ここが開口状態だったのでトンネルの中が明るく映ってしまった。これは嵌め込み式のドアを作って解消。また、カメラは1/150の世界で使うと視野が広すぎ、ジオラマ外のものが映り込んでしまう。コントローラーを設置しているジオラマ前部にも壁を立てる必要性を感じ、下記写真のように前景板を作った。向かって左側の山は、FISスキーワールドカップ、ヴェンゲンの滑降スタート台のあるラウバーホルン(Lauberhorn)、右側はチュッゲン(Tscuggen)だ。この前景板だけではジオラマ外のものが映り込むのを防止することはできないので、撮影用の白布を買った。。

 

むすび

 3年前のヨーロッパ鉄道旅行中、スイス登山鉄道の景色を見て、Nゲージ・ジオラマの世界だ、と思ったことを現実にジオラマ化できて嬉しい。年内に一区切りできてよかったが、クライネシャイデック駅2番線が空きなので、年明けにはWAB鉄道(ヴェンゲンアルプ鉄道)の黄色と緑色のツートーンカラーの車両を作ってさらに雰囲気を出したい。

(2020/12/25)

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